みかん畑

長かった午前の授業もやっと終わり、皆が待ちに待った昼休みの時間がやってきた。
 珍しく学食にしようと決めていた三人は、午前の終わりを告げるチャイムが鳴るとすぐに学食へと向かった。
「席まだあるかなあ。」
「すぐ出てきたし、大丈夫だろ。」
 食堂に着くと、案の定、席はまだほとんど埋まっておらず、三人はすぐに席を確保すると、各々昼食を買いに行った。

「まっつんは何にしたの?」
 三人が席に着くと、陽介はそう尋ねた。
「俺は日替わり定食のBだな。」
「へえ、美味しそうだね。それは、生姜焼き?」
 英一も勇樹の定食を見てそう尋ねた。
「そうそう。なかなか学食なんて来ないからな、せっかくだし、定食でも食べてみようかな、って。」
「ああ、そういう発想もあったか。」
 そういう英一の前にはカレーライスが置かれていた。
「いや、でも九十九っちの気持ちも分かるな。確かに学食と言ったら、カレーっしょ。」
「うん、俺もわかるぞ。」
「あ、よかったー。なんかミーハーすぎるかとも思ったんだけど。」
「いや、学食にミーハーも何もないだろ。」
 思わず勇樹はツッコんでしまった。
「学食のカレーってさ、何なんだろうね、美味しいよね。」
 陽介がしみじみとそういう。
「カレー自体、大抵美味しいけどな。まあでも確かに、店のとは違って、安くてコスパがいいよな。」
「そうそう、そうなんだよ。」
「で、陽介はラーメンと。」
「うん!なんだろうね、ラーメン屋とは違うこの素朴な、海の家クオリティというかさ。」
「それは普通に失礼だろ。」
「いや、二人とも失礼だと思うよ。」
 英一は冷静にそう言い放った。
「まあまあ、とりあえず食べようよ!」
 三人はいただきますをし、成長期ゆえのすきっ腹に昼食を掻っ込むのだった。

「いやあ、食べたねえ。」
「たまには学食っていのもいいな。」
「そうだね、また使おう。」
 すると陽介は、ずっと隠していたのだろうか、場所取り用だろうととくに気にしていなかったが、わざわざ持ってきていたカバンの中から、何やら巾着袋を取り出した。
「食事の後は、デザートっしょ。」
「お、まさか?」
 勇樹は中身の予想がついているのだろう、嬉しそうにそういった。
「え、なになに?」
 英一だけがぽかんとしていた。
「じゃーん!」
 そういって陽介はきんちゃく袋の中からみかんを三つ取り出した。
「おお、もうそんな時期か。」
「ああ確かに、もうそんな季節だね。」
「いや、そうなんだけど、ちょっと違うんだよ。」
 勇樹は意味ありげに答えた。
「実は僕のお母さん、実家が農家でみかん畑やっててさ、この時期になるといっぱい送ってくれるんだ。」
「あ、そうなんだ。」
「ていっても形は悪いけどね。」
 そういって差し出したみかんは、確かにボコッとへこんでいた。
「売り物にはならないのを、大量に送ってくれるんだよ。でも安心しろ、味は間違いないから。」
 なぜか勇樹も誇らしげに言った。
「まあせっかくだから、食べてみてよ。」
「ありがとう。いただきます。」
 英一がみかんを向いて口に運ぶのは二人は黙って、なぜか勇樹に至っては笑顔で見えいた。
「うわ、甘い!」
「だろ。」
 陽介よりも先に勇樹がそう言った。
「まっつん、僕のおじさんが作ったやつだから。」
「ああ、すまん。」
「喜望(きぼう)っていう品種のみかんなんだ。」
「へえ、そうなんだ。」
「もし気に入ったら、まだいっぱいあるから、今日帰りに持って帰る?」
「え、いいの?欲しい。」
「俺も!」
「わかったって、まっつんにもあげるから。」
 陽介は笑いながらそう言った。
 こんな風な立場になるなんて珍しいな、と英一は思った。
「いやあ、でも気に入ってくれてよかった。卓也おじさんもきっと喜んでるよ。」
 陽介はしみじみとそういった。

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