「これで東西南北じゃん。」
「ちょっと違うんだよ。」
「ちょっと違う?だってこれは、北でしょ。」
陽介は北の牌を指さしてそう尋ねた。
「間違ってはないんだけど。北なんだけど、北じゃないのよ。」
「え、なぞなぞ?」
「全然なぞなぞじゃない。」
「えっと、北極のトイレ!」
「何言ってんだ、マジで。」
「だから、北だけど北じゃないから。」
思わず黙り込んでしまう勇樹。
「ああ、あ、そういうことか。北じゃないから北ない。で、汚いからトレイ、と。」
「そうそう!」
嬉しそうな顔で喜ぶ陽介。露骨に嫌そうな顔をする勇樹。
「そんな顔しなくてもいいじゃんか。」
「こっちは真面目に説明しようとしてんだから!」
勇樹は声を荒らげた。
「ごめんて。」
バツの悪そうな顔を浮かべる陽介。
「説明お願い。」
「おお。だからこれは、北じゃなくて、ペイって読むのよ。」
「ペイ、かあ。」

そもそもなんでこんなことになったのかといえば、いつものように勇樹の家に遊びにきた陽介だったのだが、リビングの端に置かれていたものを見つけたのが始まりだった。

「まっつん、このクルクル巻いてるの何?」
「ああ、麻雀マットだよ。」
「え、麻雀?なんでこんな所にあるの?」
「昨日じいちゃんとばあちゃんが来て、家族でやってたんだよ。」
「へえ、すごい。」
「すごくはないだろ。」
「まっつんも麻雀出来るの?」
「まあ、強くはないけどな。」
「やっぱり強いとかあるんだ。え、家族の中だと誰が強いの?」
「そうだな、じいちゃんとばあちゃんは強いな。あとは兄貴とか。」
「へえ、俊くんも強いんだ。」
「うん。大学でもたまにやるらしくて、この前帰ってきた時にやったらボロ負けしたよ。」
「まっつんが弱いなんて、珍しいね。」
「まあ、かもな。」
勇樹は満更でもなさそうだった。
「これ、触ってみてもいい?」
「全然いいよ。」
「ありがと。てかこれ、結構重いね。」
陽介は麻雀マットを持ち上げてそう言った。
「そうな。意外と重量あるからな。あ、中に麻雀牌入ってるから気をつけてな。」
「あ、この中にくるまってる箱の中に入ってるの?」
「そうそう。」
「もしよかったらさ、ルール教えてよ。」
「おお、いいぜ。」

「まあ簡単に説明したけど、どう?」
「なんとなくわかったような、分からないような。もうこれ以上は入らないよ。」
「まあそうだよな。こればっかりはやらなきゃわからん。習うより慣れろだ。」
「じゃあ、今からやってみる?」
「うーん、二人だとさすがになあ。」
「そっかあ。」
「まあ実際やってみるのはまた今度にして、それこそ今どきアプリでもなんでもあるからそれやってみなよ。」
「うん、やってみる!それこそルール覚えたらさ、九十九っちとかも誘ってやってみようよ。」
「そうだな、三人なら三麻もできるし。」
「サンマ?魚?」
「ああ、違う違う、三麻っていうのは……」
「あ、今日はもう大丈夫。頭パンクしちゃうから。」
「じゃあまた、今度な。」
「うん、よろしく!」
陽介はまだ物珍しそうに麻雀牌を触っていた。

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