コロナ

 日付も回ろうかといういい時間。机の上にはグラスが二つ、そしてその机の下にはたくさんの空き缶。
「はあ、結構酔ったね。」
「まあ、こんだけ飲めばな。」
 積み重なっている空き缶の山を見て、俊作は答えた。
「そろそろ帰ろうかな。」
「いや帰るって……電車あんの?」
「え……?」
 ビックリした表情をする大河。
「もうないと思うけど、一応調べてみるか。」
「あ、自分でやるよ。」
「おお。」
 大河は体中をバシバシ叩き始める。
「どうした。」
「スマホどこにやったっけ。」
「いやうち来てすぐに充電していい、って聞いてたろ。」
「そうだ!よく覚えてるね。」
「良くも悪くも全部覚えてるタイプなんだよ。」
「すごいなあ。」
「そんなことより、調べるんだろ。」
「あ、そうだ。」
 大河は床に落ちているケーブルを辿り、スマホを手にする。
 俊作は目の前にある少ししけったポテチを食べながら酒をあおった。
「あ、やばい……ここって他にも最寄り駅あったっけ。」
「いや、ないな。」
「どうしよ……」
「いや、泊ってけばいいだろ。」
「え、いいの?」
「いや、ダメ、って言わないだろ。」
「うわあ、マジで助かるわ。」
 大河は手を合わせ、天を仰いだ。
「まあ泊まるんだったら、もう少し飲もうぜ。」
「いいねえ、飲も飲も!」
 大河は上機嫌になったのか、大きな声でそう言った。
「もう遅いから、声の大きさ考えろよ。」
「すまん。」
「じゃあ酒酒っと。」
 俊作は腰を上げ、七畳一間の扉を開けると、廊下にある冷蔵庫に向かった。
「何飲む?」
「ビール以外なら割となんでも。」
「あれ、ビール飲めなかったっけ。」
「うん。」
「まあじゃあとりあえずさっきのやつで。」
 俊作は後ろ足で冷蔵庫を締めると、さっきと同じ缶のレモンサワーを持ってきた。
「ありがとう。」
「じゃあ、改めて乾杯するか。」
「賛成。」
 プシュ、っという音と共に、部屋の中に漂う仄かな柑橘系の香り。
「乾杯―。」
「乾杯—!」
 これまでも結構飲んできたというのに、ぐびぐびと飲む二人。
「いやあ、乾杯しなおすとまた飲めちゃうよね。」
「それな。仕切りなおされる感じな。」
 二人はガチャガチャとテレビを変えながら、つまみを食べながら、飲み進める。
「ビール、挑戦したことはあるの。」
「うん、でもな……」
「まあ苦手な人は苦手だよな。」
「うん。」
「ああ、じゃああれとかは?」
「あれ?」
「いや別に今うちにあるわけじゃないけど、コロナビールっていうの。」
「なにそれ、知らないや。」
「割と苦くないし、それこそお店とかで頼むとレモンとかライム絞って飲むから、結構すっきりしてて飲みやすいのよ。」
「へえ!いや確かに、いつかはビール飲めるようになりたいな、なんて思ってはいるのよ。」
「うん、それならとりあえず飲みやすいやつから挑戦してみるのいいと思うぞ。」
「今度飲んでみるわ!え、いつものとことかでも飲める?」
「いや、バーっぽいとこじゃないとないかも。」
「はあ、彼女持ちはおしゃれだな。」
 大河は感心した表情でつぶやいた。
「いや、関係ないから。」
「いやあ、やっぱり宅飲み楽しいな!」
 今の会話がさほど楽しかったとは思えなかったが、酔っておかしくなってきたのだろう。楽しければいいか、と俊作も思うのだった。

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