スニーカー

 それは陽介にとってなかなかに珍しい誘いだった。
 学校帰りに本屋やゲームセンターに寄ったり、休みの日にお互いの家を行き来したり、そういうことは多々あった。
しかし意外なことに、休みの日に予定を合わせてまでどこかに出かけるということはあまりなかったし、もしそんなことがあったとしても映画やカラオケなど明確な予定を決めた上でのことだった。
それゆえに今回の、買いたいものがあるからついてきてほしい、という勇樹からの誘いには驚きを隠せなかった。

「おはよう。」
 いつもと同じ駅での集合にもかかわらず、なんだかいつもと違う雰囲気である。
「おお、おはよう。」
 いつものことではあるが、既に勇樹よ英一は到着していた。
「じゃあ、行くか。」
 勇樹は珍しい誘いをしてきたうえに、行けば分かるから、の一点張りで、決して陽介と英一に今日の目的を話してくれなかった。
 勇樹の歩く後ろを、二人はひそひそ声で話しをしながら着いていった。
「ねえ、今日の目的聞いてる?」
「ううん、知らないんだよね。」
「そっか。なんか僕に言うとなんか言われるかもしれないから言ってないのかと思ったけど、九十九っちにも話してないとなると謎は深まるばかりだね。」
「そうだね。でも映画とかそういうんではなさそうだよね。」
「さすがにそれなら最初に行ってくれると思うんだよね。」
「確かに。」
 二人は頭を悩ませたが、もちろん結論など出るはずもなかった。
「ここだ。」
 駅から歩いて数分のところにある大きな靴屋を前にすると、勇樹はそういった。
「え、ここ?」
「靴屋さんに来たかったの?」
 二人は少々面食らった。
「そうそう。まあいいから入ろう。」
 二人は勇樹に導かれるまま、店内へと入っていった。

「ここだよ、ここ。」
 いつもと打って変わってテンションが高い勇樹が連れて行ったのは店内の奥の方に設けられたブースだった。
「これって……」
「あれだよね。」
「そう。なんと『戦鬼‐ONONOKI‐』コラボのスニーカーが発売したんだよ。」
「「おおー。」」
 それは勇樹が昔から好きなゲームの一つであり、以前三人でプレイしたこともある『戦鬼‐ONONOKI‐』と全国に店を構えるこの靴屋とのコラボブースだった。
「おお、見たことあるキャラばっかりで楽しいねえ。」
「うん、こんなパネルまであっていいね。」
「だろう?」
 思いがけないサプライズにテンションが上がる陽介と英一、そしてなぜか誇らしげな勇樹。
「今回はこの、NOBUNAGAモデル、HIDEYOSHIモデル、IEYASUモデルの三つが展開されてるんだってよ。」
「へえ、どれも結構カッコいいね。」
「派手過ぎるわけでもないから学校とかにも履いていけそうだね。」
「そうだろ?」
「まっつんは買うの?」
「もちろん。」
「どれを買うの?」
「二人が買うもの次第だな。」
「「え……」」
 驚く二人。
「え、買わないのか?」
「いや、そもそもそんなにお金持ってきてないし。」
 でかでかと書かれた値札を見て答える陽介。
「僕も、ごめん。」
「なんでだよ!」
 少しばかり声を荒げる勇樹。
「だって、ねえ。」
 英一に同意を求める陽介。
「なんだよ。」
「いやその、何するか聞いてなかったから。」
 英一は申し訳なさそうに答えた。
「あ……」
 思わぬ失態に気付く勇樹。
「すまん。」
 これまた珍しい光景に、思わず黙ってしまう二人。
「いや謝らないでよ。」
「うんうん、面白かったしね。」
二人は慌てて、フォローした。
「うん……とりあえず、試しに履いてみるから見てくれないか。」
「「もちろん。」」
 二人は元気にそう答えた。

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