平和

 昼休み。珍しく学食で昼食を済ませた二人は、なんとなく学校の中庭に来て、ベンチに座ってみた。
「暇だねえ。」
「ん、ああ。」
 陽介からの問いかけに、勇樹は適当な返事をした。
「まっつん、せっかくだからなっかしようよ。」
「何かってなんだよ。」
「うーん、じゃあかわいいものしりとり。」
「いいよ、前にもやったろ?」
「別にいいじゃんかよ。」
「普通のしりとりならまだしも、ああいう変則ルールのやつはたまにやるからいいんだよ。」
「そういうもんかあ。」
 秋も終わりが近いというだけあって、さすがに外は寒い。
「結構冷えるな。」
「もう冬も近いからね。」
「そろそろ教室に戻るか。」
「いやいや、もう少し座ってようよ。」
「ああ。」
 強い風が吹き、二人は思わずぶるっと震えた。その風に巻きあげられた葉っぱが冬の訪れを感じさせた。
「もうそろそろ高校二年生だよ。」
「そうだな、年明けたらあっという間だな。」
「そしたら受験勉強も始めなきゃじゃん。」
「陽介がそんなこと言うなんて珍しい。ここ寒いから風邪でも引いたか。」
「風なんか引いてないってば。僕だってたまには真面目なことくらい言うよ。」
 勇樹は声を出して笑った。
「ごめんごめん。でも突然どうしたんだよ。」
「いやなんかさ、高校生活って三年間しかなくて、最後は受験とか考えなきゃで、意外とあっという間だな、と思って。」
「まあそうな。何、もう進路とか考えてるの?」
「いや全然。まっつんは?」
「まあ漠然とだけどな。」
「え、何何?」
「まあせっかくなら、俺も兄貴みたいに東京の大学に行きたいな、って。」
「東京かあ……」
 陽介は、まだ何も考えていない自分にとって、兄にならってとはいえ、目標がある勇樹を遠くに感じた。
「いいなあ、目標があって。」
「目標ってほどじゃないけど。まあ選択肢の一つとしてはありかな、って。」
「僕も東京行こうかなあ。」
「おお、いいんじゃねえの?」
「え、てっきり止められるかと思った。」
「なんでだよ。止める理由もないだろ。」
「ああ、まあそうか。」
「まあ俺もこれからだけど、漠然と東京に行く、じゃなくて、なんか目標があった方がいいとは思うぞ。」
「なるほどね。」
「俺もまあ、少しずつだけど、大学調べ始めたりはしてるから。」
「え、もう?」
 陽介は思わず大声を出してしまった。
「そんな大声出すなって。別にあれだぞ、軽くネットで調べてみるとかその程度だぞ。」
「いやあ、それでも驚きだよ。」
 陽介は思わず感心してしまった。
「大学見に行ったりもするの?」
「まあ、夏くらいにはいくかもな。」
「まっつん!」
 さっきよりも大きな声を出す陽介。
「なんだよ、落ち着けって。」
「別に一緒の大学目指すとかではないけど、僕も一緒に行っていい?」
「ああ、もちろん。」
 陽介は大きく伸びをした。
「んーーー、なんか少し希望が見えてきたぞ。」
「別に元々暗くなっちゃいないだろ。」
「まっつん、平和だねえ。」
 陽介はかみしめるようにそう言った。
「ん、ああ、まあな。」
「これからもよろしくね!」
「どうした急に。」
「いや、なんかさ。」
 陽介はそう言いながら微笑んだ。勇樹もなんだか微笑みそうになってしまったが、ぐっと口元を締めるのだった。

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