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 夕方という時間帯は、学生にとって一番幸せな時間と言っても過言ではないかもしれない。
 朝早くに起きて学校に向かい、昼頃まで授業を受け、しばしの休憩。そしてさらにそこから授業を受け、やっと解放される。
そこからは自由な時間だ。部活に行くもよし、バイトに行くもよし、遊びに行くもよし、もちろん勉強するもよし。
今日も今日とて連れ立って帰る勇樹と陽介。そこに英一の姿はない。
何も仲が悪くなったとかそんな話ではなく、ただ単純にデートなのだ。ただ、単純に。
二人からすると英一に彼女がいようがいまいが関係なかったが、こうしてデートがあるからと会えなくなると、得も言われぬ感情が二人の腹の中を巡るのだった。
こればかりは仕方がない。二人だって思春期真っ只中、できれば彼女だってほしいのである。
しかし二人はそんなことなどおくびにも出さずに英一を見送り、そしてそもそも始めから今日は二人だったかのようにふるまうのだった。
「今日は、このまま帰る?」
 しばらく二人は無言で歩いていたが、陽介がその沈黙を破った。
「うーん……あ、そうだ。見たい本があるんだ。」
「じゃあ駅前の本屋にでもいこっか。」
「おお。」
 正直勇樹も特段欲しい本があるわけではなかったが、なんだか今日このまま帰ってしまうのは得策ではない気がして、そんな提案をしたのだった。
 かくいう陽介も、勇樹の言動から何となく察してはいたが、それも決して口には出さなかった。これはまさに、幼い頃から付き合いがある二人だからこそとれる連係プレイと言っても過言ではなかった。
 駅に向かう最中、未知の向こうから別の高校の制服を着た女性とが二人、楽しそうに歩いてきた。二人は何も言わずにすれ違ったが、すれ違って少ししたところでおもむろに勇樹が口を開いた。
「今朝電車乗ってたらさ、女子高生が二人乗ってたんだよ。」
「うん。」
「そしたら一人の子がもう一人の子に、このネットニュース見たって、そう話しかけてて。」
「うん。」
「詳しい内容までは分かんないんだけど、なんか有名な俳優二人が、SNSで夜中にゲリラ生配信をやった、みたいな記事だったみたいなんだよ。」
「ああ、何か僕も今朝見たかも。」
 陽介も今朝スマホを開いた際にそのニュースを見かけたことを思い出した。
「それって、ニュースなのか。」
「まあ、確かに。」
 陽介は思わず笑ってしまった。
「まあ目新しいトピックと言えばそうかもしれないけど、でもそのニュースがあるってことはそのニュースの記事を書いた人がいるわけで、そんなんでお金もらってる人がいるってことなんだよな。」
「うん、そうね。」
「学生の分際でって言われるかもしれないけど、楽な仕事だよな。」
「それくらいならネット見てるだけで自分にもできちゃう気がするもんね。」
「なんかあれだ、嫌なことしか考えないテンションになってる気がする。なぜとは言わないけど。」
「分かるよ、その気持ち。僕も、なぜとは言わないけど。」
「ああ、じゃあそうだ。ニュースってなんでニュースっていうか知ってるか。」
「ニューな……スだから。」
「スってなんだよ。」
 勇樹は鼻で笑いながら言った。
「でもニューはあってるでしょ?」
「いや。まあもしかしたらそういう説もあるかもしれないけど、俺が知ってるのとは、違うな。」
「ええ。じゃあなんで?」
「ニュースって英語で書くと、N,E,W,Sって書くだろ。」
「うん。」
「これがそれぞれ、ノース、イースト、ウエスト、サウスって、方角になってるんだよ。」
「ああ、本当だ。」
「だから、東西南北から事件とかを集めてくるから、ニュースなんだよ。」
「へえ、勉強になる。」
「俺は昔気になって自分で調べたんだが、こういう豆知識を披露するだけのネットニュースも、あるよな。」
「うん。全然ニュー、じゃないのにね。」
 二人は笑いながら歩みを進めた。

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