グランプリ

 夏は一年で一番暑い季節。それは気温に限ったことではない。
 各地で色々な祭典が催されるそんな熱い季節なのだ。
 人間一人一人にとっての夏があり、去年よりもさらに暑い夏にしようと皆、鎬を削るのだ。

 ここは都内某駅前にあるこじんまりとしたファミリーレストラン。都内とはいってもそれほど栄えた場所ではないこともあり、個々のファミリーレストランはいつもそれほど騒がしくなかった。
 そんなファミリーレストランにて、大盛りのポテト一皿と、ドリンクバーのコップを二つ付き合わせて、何やら熱心に話し込む男が二人。
 なるほど、少ないお小遣いでやりくりしている貧乏学生かと思って見てみるとどうやらそうではないようで、二人ともすでに成人済みなのは誰の目にも明らかだった。
 しかし、机の上にあるのは、やはりポテトとドリンクバーのコップのみ。

「もういよいよ二週間切ったな。」
「うん……」
 光一と敦はいつになく真面目な表情で座っていた。
「やっぱりこの前もやったこれがいいんじゃないか。」
 敦は机の上に並べられた二種類の紙ぺらのうち、片方を指差しながらそう言った。
「うーん、そうだねえ。」
「あんまり納得いってない?」
「正直、迷いはある。」
「聞かせて。」
「普段のライブシーンで上位に入ろうとするならこのネタでも当然いいと思うんだ。実際結構ウケるしね。」
「そうだな。」
 実際にこのネタは毎回最低限のウケは確保されていたし、前回のライブでもランクインしていた。
「でも……」
「漫才グランプリ向けではない。」
「そう。」
 敦自身、光一に指摘される前からそのことには気づいていた。
「結局完全客票の普段のライブとかとは違って、審査するのは作家さんたちだからね。」
「そうなんだよなあ……」
「もちろん、ウケなきゃダメ。だからそういう意味では、こっちのネタはそこはクリアしてるけど……」
「目が肥えた人がどう見るか。」
「そう。」
 スー、と息をこぼしながら敦はコップを手に取るとぐっと飲みほした。
「でも、こっちはこっちで不安だろ。」
 敦はもう一種類の紙ぺらをトントンと指で小突いた。
「まあ、そうだね。正直、まだ未完成というか、そういうところは否めない。」
「うん……」
 二人は再び頭を抱えた。
「あと、何回だっけ。」
「ライブ?」
「そう。」
「ちょっと待って。」
 光一はスマホを確認する。
「土曜日に二本と、火曜日に一本。計三本だね。」
「3かあ。」
「きわどいね。」
 敦は頭をがーっと掻くと、ちょっと一服吸ってくる、と席を後にした。
「こっちを、手直しするか、それとも。」
 光一は台本に穴が開くのではないかというほど、睨みつける。
「通りたいなあ。」

 タバコの匂いを纏わせながら戻ってきた敦は、椅子に座るなり話し始めた。
「こっちのネタは、もうやることはやった。」
 先日やった方のネタを指差す。
「そうだね。」
「あと三回、そっちを叩いてみよう。」
 そう言って指差したのはもう一つの台本だった。
「で、それでもやっぱりだったら、こっちに戻ろう。」
「……分かった。」
 光一はゆっくりと返事をした。

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