ハンバーガー

 よく、悩んでいる学生などに対して、「そんなのは今だけだから」、「社会いでたらもっと大変な思いをするから」と声をかける愚かな大人がいる。
 確かにそれは正論かもしれない。お金を払って何かをするよりも、お金をもらって何かをすることの方が責任が伴うし、大変なことも多いだろう。しかし、だからと言って、そんな声のかけ方は至ってナンセンスである。
 まだ生まれて十数年しか経っていない学生からすれば、今向き合っている悩みは今までで一番大きな悩みであり、その子にとって人生を揺るがしかねないことなのだ。
 もちろん後から振り返ってみれば笑えることもあろうが、それは時間が経ってからの話である。
だからこそ、少し先を歩いていている友人や、少し年上の人に惹かれるのである。

「着きましたね。」
「そうだな。どうした、なんか緊張でもしてる?」
「こんな風に都心の方まで出てくることなんてほとんどないので。」
「ああそうか。まあ確かに、俺も高校生の時はな地元で済ませてたもんな。」
「玲央さん、今日は連れてきてくださって本当にありがとうございます。」
 清志は深々と頭を下げた。
「いや電車に揺られてれば全然来れる場所だから。」
 玲央は笑った。
「もうお腹すいてる?」
「はい、そうですね。」
「よし、じゃあ飯行こうか。」
「はい。」
「何か食べたいものとかある?」
「もう全然お店が分からなくて、何がいいやらです。」
 清志はまだ慣れないのか、辺りをきょろきょろを見回した。
「そっか。」
 玲央はまた笑った。
「じゃあ、何か食べられないものとかはある?」
「あ、それは特にないです。」
「オッケー、そしたらまだお昼だし、あそこに行くか。」
 そう言うと、玲央はどんどんと歩いていき、清志はそのあとを着いていった。

「ここ、ここ。」
 玲央に案内されたのは、カラフルな看板のお店だった。
「ここ、『プット・ビトゥイーン』。来たことある?」
「すみません、お店の名前も知らなかったです。」
「そっか、そっか。なんか東京で人気のハンバーガー屋さんらしくて、こっちの方にも割と最近進出してきたのよ。」
「へえ、そうなんですね。」
「なんていうの、すごいでかいハンバーガーみたいな。」
「なるほど、楽しみです!」

「いらっしゃいませ。」
 笑顔の眩しい女性店員が元気なあいさつで出迎える。
「ご注文はお決まりでしょうか。」
「じゃあこの、ビトゥイーンバーガーのセットで。」
 玲央がすんなりと頼む。
「清志はどうする?」
「あ、僕は別で頼むので……」
「ああ、いいって。これくらい出すから。」
「すみません。」
「で、何にする?」
「じゃあ自分も、同じもので。」
「じゃあそのセット二つで。」
「かしこまりました。お飲み物は何になさいますか?」
「俺はアイスコーヒーで。清志は?」
「自分はオレンジジュースで。」
「お願いします。」
「かしこまりました。店内でお召し上がりですか。」
「はい。」
「そうしましたらお会計の方が、1,760円になります。」
「じゃあ、2,000円で。」
「はい。240円のお返しになります。」
「どうも。」
「それではあちらで商品の方をお待ちくださいませ。」
 女性店員はさっきと同じ笑顔で、二人を別カウンターに誘導した。
「御馳走していただいて、ありがとうございます。」
「いや、いいよ全然。」

 少しすると先ほどとは別の店員がトレイを持って現れた。
「ビトゥイーンバーガーセット二つでお待ちのお客様。」
「はい。」
 清志がトレイを受け取ると、二人は空いている席を探し、席に着く。
「じゃあ食べるか。いただきます。」
「いただきます!」
 袋を開く前からすでに気づいてはいたが、いざハンバーガーを対面してみると、あまりの大きさに驚く清志だった。

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