釣り

日曜の昼下がり、松野家の面々は珍しく皆揃って家にいた。
と言っても、別に何かを一緒にするわけではなく、勇樹は部屋で勉強やゲームをし、勇作と亜寿美はリビングで海外ドラマを見ていた。
「亜寿美さん、今日のお夕飯、みんなで食べに行くのはどうかな?」
「いいわね、珍しく三人とも家にいるし。名案だわ、勇作さん。」
「ふふふー。」
勇作は少し照れて見せた。
「せっかくならガッツリ食べたいかなあ、って。」
「そうねえ。あ、久しぶりに焼肉なんてどうかしら?」
「焼肉か、焼肉いいねえ。」
「じゃあ一応勇樹にも伝えてくるはね。」
そう言って亜寿美がソファーを立とうとした時、インターホンが鳴った。
「あら、誰かしら?」
「うーん、誰だろうね。」
二人は顔を見つめ合わせると、勇作が先だって立ち、モニターを見る。
「はーい……あ、お義父さんにお義母さん。」
モニターには、アウトドアなことをしてきたのだろう、山登りのような格好をした亜寿美の両親が立っていた。
「おお、勇作くんか。」
「突然ごめんなさいねー。」
「ちょっと待ってください、今開けますね。」
そう言って勇作はモニターを切る。
「お義父さんたちだ。」
「どうしたのかしら。」
二人は玄関まで行き、鍵を開けた。
「おお、突然ごめんな。」
尊は入るなりそう言った。
「そうですよー、だから連絡の一本でもした方がいい、って言ったのに。」
「いえいえ、お気になさらないでください。」
「でも、突然どうしたの?」
「いやあ、ほら。これこれ。」
尊は肩からかけた大きめのクーラーボックスを指さした。
「これは?」
「釣りだよ、釣り。」
「ああ、釣りですか。」
すると、玄関からすぐのところにある階段の上の方から勇樹がひょっこり顔を出した。
「あ、おじいちゃん。おばあちゃんまで。」
「おお、勇樹!お前も家におったか。」
「久しぶりねえ。こっちに来なさい。」
「うん。」
 勇樹が階段を降りると、今日は朝早くから釣りに行ってきたことという話をし始めた。
「はあ、そうだったんですね。」
 勇樹はなんとなく聞き流していたが、勇作にとっては義理の両親ということもあり、積極的に相槌を打っていた。
「で、これを釣って来たってわけだ。」
「なるほど。」
「釣ってきたって、どうするの?」
「いや、もしみんなも都合がよければ、一緒に食事でもどうかと思ってな。」
「食事って、それは全然いいけど、魚を捌くってこと?私そういうのはあんまりできないわよ。」
「いやいや勝手に押し掛けたんだ、ここは私たちに任せなさい。」
「えー?」
「なあ、勇樹。」
 尊は勇樹に同意を求めた。
「いや俺は全然いいけど……」
 こうなっては断ることもできないだろうし、きっと勇作も義両親が家で調理をしていては、気を使うに違いない。そう思い、勇樹は続ける。
「まあでも魚だけじゃ寂しいだろうし、ちょっと買い物行こうよ、父さん。」
「え、ああ。」
「そうそう、今日はまだ買い物に行ってなかったから、お願いできる勇作さん。」
 亜寿美も勇樹の意図に気づき、続いた。
「わかった、行ってくるよ。」
「おお、じゃあ頼むよ。その間に私たちの方で準備はしておくから。」
「はい。じゃあ、車の鍵とってくるね。」
「俺も、準備してくるよ。」
「おお。」
 勇作は二人には気づかれないように勇樹に感謝して見せた。

この記事が参加している募集

#スキしてみて

527,899件