有利

「えー、待って待って待って！」
　人は極限状態でこそ、本当の顔をのぞかせる。完全に追い込まれてしまった陽介になす術はなかった。
「よし、俺の勝ちだな。」
「まっつん、強すぎるよ。」
「本当、松野くん強いね。なんかこういうの得意なイメージなかったから意外かも。」
「九十九っち、こう見えてね、まっつんは昔からゲームが得意なんだよ。」
「へえ、すごいね。」
　ゲームを始めてから一時間ほど、英一もようやくこの空気になれてきたところだった。

「まっつん、今日うち来ない？」
「ああ、いいけど。何だ、勉強か？」
「テストが近いわけでもないのに、そんなことするわけないじゃん！」
　陽介は、まるで勇樹が面白いことでも言ったかのように、大きな声で笑いながらそう言った。
　勇樹は、これ以上洋介に言っても無駄だ、と思った。
「で、何すんの？」
「そりゃあもちろん、戦鬼―ONONOKI―でしょ。」
「まあそうなるか。やろうじゃねえか。」
「他にも誰か……」
　そう言いながら陽介が周りを見渡すと、ちょうど英一が帰ろうとしているところが目に入った。
「九十九っちー！」
「ああ、菅原くん。」
「このあと、まっつんとうちでゲームやるんだけど、一緒に遊ばない？」
「え、僕が？いいの？」
「いいよね？」
「うん。何も問題ない。むしろ、来てほしいくらいだ。」
「あのね、今日はまっつんの家じゃなくて、うちに呼ぶんだよ？なんでまっつんが勝手に歓迎しちゃってるのさ。」
「陽介じゃ相手にならないからな。」
　陽介は心外だと言わんばかりに怒ってみせた。
「ちなみに、何をやるの？宿題？」
「そんなことするわけないでしょ。まっつんも九十九っちもふざけすぎ！」
　英一は全てを察したのか、苦笑いこそ浮かべたがそれ以上言及してこなかった。
「戦鬼―ONONOKI―ってゲームなんだけど、九十九くんはやったことない？」
「ああ、CMで見たことはあるけど、やったことはないかも。」
「まあそんな難しいゲームじゃないし、とりあえずおいでよ。」
「うん、ありがとう。」
　英一は感謝の言葉を述べたが、内心はバクバクであった。
　確かに、最近勇樹とは話すようになり、流れではあったが、映画も一緒に見に行くような関係にはなった。しかし、肝心の陽介とはあまり深く関わったことはなかった。
　でも、陽介は、自分と仲良くしてくれている勇樹の無二の親友。きっと打ち解けることができるはずだ。そう心の奥で誓いながら二人についていった。

「お母さんただいま。友達連れてきた。」
「おかえりー。」
　そう言って玄関に顔を出したのは、陽介と似た雰囲気を醸し出した優しそうなお母さんだった。
「おばさん、こんにちは。」
「あら、勇樹くん。それと、勇樹くん以外の方もいらっしゃったの？」
「あ、はじめまして。突然お邪魔してしまって申し訳ありません。陽介くんのクラスメイトの九十九英一と申します。」
「ご丁寧にどうも。陽介の母です。いつも息子がお世話になってます。」
　にこにことした表情を浮かべながら、真央は答えた。
「いえいえ、そんな。」
「九十九っち、そんなに緊張するなって。とりあえず、俺の部屋に行こうぜ。」
　英一は言われるがままに、陽介の部屋に向かった。
　荷物を置いて一息つくと、陽介はさっそくゲームのセッティングを始めた。
「戦鬼―ONONOKI―っていうのは、簡単に言うと戦国武将を使った格闘ゲームだな。」
　確かCMでもそんなことを言っていた気がしたな、そう思いながら英一は相槌を打った。
「シナリオモードとかミニゲームとか、他には世界中のプレイヤーとオンライン対戦もできたりするんだけど、今日はとりあえずみんなで対戦しよう。」
「僕、やったことないけど、大丈夫かな？」
「ハンデとかも付けられるからそこらへんは気にすんな。まあ、陽介も弱いしな。」
「まっつんが強すぎるんだよ。」
　陽介は怒ったような口調でそう言った。
「とりあえず初心者はここら辺のキャラか、あとは武将によって属性とかがあって、その属性によって有利不利があるから、まずはそういうところで選んでみてもいいかも。」
　勇樹は、コントローラーを動かしながら英一に丁寧に説明をした。
「まあ習うより慣れろ。とりあえず俺と陽介でやってみるから見ててくれ。」
「うん、わかった。」
「よーし、じゃあ僕はこいつで。あれから結構練習したからね。」
「おお。じゃあ俺はこいつに有利、と見せかけて不利なこっちでいこう。」
「ちょっとまっつん、さすがに舐めすぎじゃない？」
「そういうセリフは勝ってから言ってくれ。」
「絶対勝つ！」
　陽介はそう意気込んだが、数分後、彼は見るも無残な敗北を喫した。

「よし、じゃあ次は九十九くんの番だ。」
「うん、やってみる。」
　英一は軽く肩を回してから、勇樹からコントローラーを受け取った。