太鼓

小さい時からよくいたずらをしては怒られていた。怒られたその場では頭を下げて謝っていたが、地面を見ながらあっかんべーをし、次の日にはまた怒られるのが日常だった。
今まで数えきれないほどのいたずらをした。
先生の車に落書きをしたり、好きな女子にちょっとあれないたずらをしたり、商店街の店の看板にオリジナルサインを書きまくったり、自分の誕生日会の時に手巻き寿司に高級チョコをはさんで食べたこともあった。
もちろん、そのあとでこっぴどく母さんには怒られた。さすがに誕生日にあんなに怒られたのは、あの時が最初で最後だ。
 なんでそんなにいたずらをするのかと聞かれたことがあった。何か複雑な事情があるに違いないと思われたのだ。
でも別に大人の注意を惹きたかったとかそうすることで自分の存在を認めさせたかったとかではない。
一人っ子だったためしっかりと両親から目をかけられて育てられたし、母さんは専業主婦だったため家に帰って寂しい思いをすることもなかった。
それならなぜ。理由は単純、ただただみんなを楽しませたかったからだ。
 大人たちは俺がいたずらをするたびに、またお前か、と怒ったが、そのいたずらを見ていた友達たちが笑ってさえくれれば怒られることなど大したことではなかった。
 でも今になって思えば、あの時の俺はやりたいことがなく、有り余るエネルギーの発散先がなかったのだろう。
学年が上がるにつれてみんながクラブ活動を始めたり、塾に通い始めたり、少しずつ大人になっていく気がしていたが、だからと言って俺が変わることはなかった。
中学に上がっても俺は部活に入ったりせず、毎日を無気力に過ごしていた。そんな中学最初の夏休み、俺は友達に誘われて夏祭りに出かけた。
 夏祭りといってもそんなに大きなものではなく、近所の商店街や神社で行われる地域の夏祭りだった。それでも普段は部活で忙しい友達たちと久しぶりに遊べるのはとても楽しかった。
 中学生ということもあり、今までみたいにお夕飯までに帰ってきなさい、なんて言われることもなく、周りが暗くなるまで遊び惚けていた。するとどこからか、ドンッ、という腹に響く音が聞こえてきた。
 友達たちの制止も聞かず、俺の足は自然とその音の方へ向かっていった。
 神社の境内につくと、そこには大人子供問わずたくさんの人が頭には鉢巻をまき、法被を着て一心不乱に太鼓を叩いていた。
 その姿は圧巻だった。最後の演目まで終わると見ていた人たちが割れんばかりの拍手を送った。
 これだ!、そう直感した俺は、真ん中で太鼓を叩いていた初老の男性に話しかけた。
 近づいてみてわかったが、その男性の体は鍛え抜かれており、一目でただものじゃないな、と思った。
「青砥清志と言います。」
「青砥清志?お、お前あれだな。いたずら小僧だな。」
 ギクッとした。
「ははん、図星だな。俺は角田竜生(つのだたつお)。で、どうした。」
「僕も太鼓が叩きたいです!」
「よし、じゃあ水曜日の午後六時に、公民館に来い。」
「え、いいんですか?」
「お前、太鼓が叩きたいんだろ?」
 俺は強くうなずく。
「じゃあ断る理由がねえ。」
 そういってニヤリと笑った。
「竜さん、ちょっといいですか?」
「おお、今行く!」
 そして竜さんと呼ばれたその男性は、
「待ってるぞ!」
 と言いながら俺の背中を叩いた。
 その一撃はとても重かった。
「よろしくお願いします!」
 そういって頭を下げた俺の顔には笑顔こそあったが、舌を出したりはしていなかった。

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