ギャラクシー

 大河は相当答えたのだろう、元々そんなにお酒が強くないにも関わらず、今日はいつにもましてハイペースで飲み続けた。
「おい、大河。飲み過ぎだって。」
 大河は手に持っていたジョッキを叩きつけるように机の上に置いた。
「やってらんねえよ!」
 そしてジョッキを見つめながら、
「ごめん、お前んちの机なのに。」
 と、謝った。
「いや、大丈夫。」
 俊作はなだめるように言った。
「ひろたすの裏垢が発覚したのは別にいいんだ。」
「ひろたす?」
「金木千紘(かねきちひろ)。その裏垢の子だよ。」
「ああ。」
「で、まあひろたすに彼氏がいたのも別にいいよ。」
「うん、ふー姫推しだもんな。」
「いや、もっと言うならふー姫に恋人がいたってかまわないんだ。」
「え、そうなの?」
「だって、あんなに魅力的なんだ。そりゃあ恋人が至っておかしくないさ。」
「お前、大人だな。」
「でも、まず裏垢発覚で恋人がバレた件に関して言うと、そんな風にしてバレるのだけは耐えられないんだ。」
「というと?」
「ふー姫も、今回バレたひろたすも、仮にもアイドル。そこはプロに徹してほしいじゃん。もしバレるなら、雑誌に撮られるとか、そういう自分では意図しない形の方がいいじゃん。」
「なるほどな。」
「しかも今回のひろたすの件に関していえば、お相手もメンズ地下アイドル。ギャラクシーってグループ知ってる?」
「いや、知らない。ギャラクシーって、銀河?」
「そう。アイドル星からやってきたメンズアイドルグループ。」
「だからギャラクシーって名前なのか。いやあ、厳つい設定だな。」
「そんなキャラなのに、こんな現代的な方法でバレて、どうなってんだよ!」
 大河は缶ビールを開けると空になったジョッキに注ぎ、それを一気に飲み干した。
「飲み過ぎだって。」
「誘ってくれたのは俊作じゃんか。」
「いやそうだけど……」
「それに、メンバーの悪口。」
「ああ、それは確かにな。」
「さっきの恋人ぐらいいようって考えから行けば、裏垢でそんなことを呟いちゃうのはプロ意識が欠けてるとはいっても、まあまだ許せる。」
「うん。」
「それだって正直許せてないけどな。」
「分かってる分かってる。」
 俊作は興奮冷めやらぬ大河を手で制した。
「それが、一緒に頑張ってるメンバーの悪口だなんて、そんなのありかよ。」
 大河はそこまで言うと、うなだれた。
「うん……」
 俊作もかけるべき声が見つからなかった。
「そりゃあ一緒の共同体にいて、一緒にものを作り上げてれば不満だってあろうよ?」
「それはそうだな。」
「だから、そういうときのために友達っているんだろ?実はこういうことがあって、って相談したり。」
「うん。」
「それをさ、鍵がついてたからってSNSで世界に発信するだなんて……」
「確かに、そこら辺のネットリテラシー、そういうのが欠如してる人多いよな。」
「で、実際今回バレちゃったわけで、アイドルとしてというより、人としてどうなんだよ……」
 大河は肩を震わせた。
「ふー姫を信じよう。ふー姫はそんな悪口には負けないし、そもそもそんなことだってする子じゃないだろ?」
「うん……」
 俊作は黙って大河の肩に手を置くのだった。

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