ウミガメ

 勇樹と陽介は今日は連れ立って英一の家に向かっていた。
 英一から誘われた時点で、勇樹はてっきり例のレトロゲームのうちの何かをプレイするのかと思っていたが、どうやら今日はそうではないらしい。
「てっきりゲームかと思ったんだけどな。」
 勇樹は少し残念そうに呟いた。
「まあまあ。ゲームはいつでもできるじゃん。」
「いやいや、英一が持ってるゲームはそんじょそこらじゃプレイできない代物ぞろいだぞ。」
「前も言ってたね。」
 陽介は笑いながら答えた。
「まあでもせっかく誘ってもらったわけだし、楽しもう。」
「そうだね。」

「いらっしゃいー。」
「「お邪魔します。」」
「とりあえず部屋に行こっか。」
「うん、ありがとう。」
 二人は二階にある英一の部屋へと向かった。
「とりあえず適当に座ってよ。」
 そう言われ、二人は床に置かれた座布団の上に腰かけた。
「飲み物は、お茶でいい?」
「ああ、そんな気遣うなよ。」
「気なんて遣ってないよ。」
「ああ、そうか?」
「じゃあ、お茶お願い。」
「わかった。」
 そういうと英一は階下へと向かった。
「それにしても、英一の家って本当に綺麗だよな。」
 英一は部屋を出ると、勇樹はそうこぼした。
「うん、本当掃除が行き届いてるというか、すごいよね。」
「なあ。」
「それにしても本当、何するんだろうな。」
「うん。それな。」
 そんな会話をしていると、カラカラという音を立てながら、英一が階段を上がってくるのが分かった。
 勇樹が扉を開けると。英一は、ありがとう、と言いながら、部屋に入った。
「お待たせ。」
「おお、ありがとう。」
「ありがとうー。」
 英一は部屋の真ん中に置かれたちゃぶ台のような机の上にコップが三つ置かれたお盆を置いた。
「特にどれが誰のコップとか決まってないから、適当にとって。」
 二人はそれぞれ、自分から一番近い場所にあるコップに手をかけた。
「ありがとう。」
 お茶を飲み一息ついたところで、勇樹の方から切り出した。
「そういえば今日は、どうして呼んでくれたの?」
「ああ、そうそう。ちょっと待ってて。」
 英一は勉強机の近くの棚を開け、そこから何やら箱を取り出すと、お盆が置かれた机の上に静かに置いた。
「ウミガメの、スープ?」
 勇樹はその箱に書かれた文字を読んだが、何のことかはさっぱりわからなかった。
「そう、知らない?」
「俺は知らないな。」
「僕も、分からないや。」
「これはいわゆるカードゲームなんだけど、水平思考ゲームっていうのがあって、それは知ってる?」
「いや、何を言ってるか正直分からん。」
「うん。」
「そうだよね。」
 英一は笑った。
「そうだな、僕が、少し不思議な文章を読むのね。例えば前にあったのだと、水が欲しくてバーに入った男は、店員に銃を突きつけられて感謝した、みたいな。」
「なんだその話。」
「銃を向けられたのに感謝したの?」
「そう。この変なお話に対して、二人は、はいかいいえで答えられる質問をするのね。」
「おお。」
「それで、この話の真相を探る、みたいな。」
「推理ゲームみたいなことか。」
「そうそう!」
「え、でも何を質問したらいいの?」
「なんでもいいんだよ。」
「じゃあ、なんで水が欲しかったんですか、とか。」
「いや、それだとはいかいいえで答えられないからダメなんじゃないか。」
「そう。勇樹くん正解。」
「おお。じゃあ例えば、結局水は飲みましたか、とか。」
「いいね。その質問なら、いいえ。」
「おお、こうやって推理してくのか。」
「そういうこと。」
「へえ……ちなみに、今の答えは?」
 陽介はたまらず尋ねた。
「ああ、答えは……」
「いや待て。」
 答えを言おうとする英一を勇樹は制止した。
「せっかくならやってみよう。」
「おお、いいねえ。」
「いいけど、なんか僕は苦手そう。」
 陽介は少し不服そうな表情を浮かべるのだった。

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