マンモス

 一日の駅の乗降客数を調べてみると、ここが多いのか、と知ることができる。
実際その駅に行ってみたことがあれば、ああなるほど、と納得できるかもしれない。
といってもあまりの人の多さを実感するだけで、その具体的な人数が把握できるわけではないが。
そしてさらに驚くべきことに、世界の乗降客数のランキングを調べてみると、なんとトップ8くらいまで日本の駅が占めているのだ。
つまり、日本の上位8駅が、世界の上位8駅なのだ。
たった1億人ほどの国なのに、これは恐るべきことである。

 俊作は珍しく上野駅に来ていた。
 新宿や渋谷に比べれば人が多いわけではなく、すっかり東京にも慣れてきたと思っていたが、なんだか来慣れない場所だけあって、いつもよりそわそわしていた。
「お待たせー。」
 紫月はそう言いながら俊作の元に駆け寄ってきた。
「いや全然。まだ集合時間前だし。」
「じゃあ、行こっか。」
「うん。」

 もちろん上野に来たのには理由があった。
 それは、博物館で開かれているマンモス展に足を運ぶためだった。
 二人とも特段そういうものに興味があるわけではなく、かといって全く興味がないわけではなったが、今まで特にこういうところに来ようということはなかった。
 しかし学生の身分である二人が使えるお金には限度があり、毎度毎度デートに大金を使うこともできない。
 それゆえ、よく行く場所やレストランなどがいくつかに絞られ、そのいくつかを回すようになっていた。
 これでは面白みに欠ける、とお互い色々調べていたところ、偶然紫月が朝のニュースで、上野の博物館でマンモス展が開かれる、と紹介されているのを目にしたのだ。

 二人は、子供のころ以来、博物館など行っていなかったため、改めて調べてみると驚くほどリーズナブルなことが分かり、ここに決めたのだった。

「なんか楽しみだね。」
「うん。それこそ、こういう博物館みたいのに来たのは小学生以来かも。」
「私も。」
「面白い……んだろうな。」
「なによ、その反応。」
 紫月はくすくすと笑った。
「いやほら、子供の頃に夢中になった記憶もないし、感覚が分からないからさ。」
「確かにね。でもほら、この年だから楽しい、みたいのあるかもよ。」
「そういうもんかな。」
「そうよ。ほら、京都とか奈良の仏閣だって、正直中高生の頃はあんまり面白くなかったでしょ。」
「ああ、正直そうだったね。主うがぃ旅行自体は楽しかったけどね。」
「そうそう。でもほら、大学生になった今、ちょっと行ってみたい気もしない?」
「なんかわかる。」
「ね?それこそもっと大人になったら、もっと良さが分かる気がするのよ。」
「うん、確かに。そう考えると、博物館とかも同じか。」
「そうそう。」
 紫月は満面の笑みを浮かべた。
「ふふ。」
 俊作は急に笑い出した。
「なに、どうしたの。」
「いや、なんでもない。」
「何よー。」
「何でもないって。」
「えー、絶対なんかあったでしょ。」
「なんでもないって……あ、ほら、あれじゃない?」
 俊作は博物館の方を指さして、紫月の追及から逃れようとした。
 はあ、とため息をつく紫月。
「ホントだ、行こっか。」
 二人は手を繋ぎながら、歩みを進めた。

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