イートインコーナー

「紫月、買い物行くから一緒に来てちょうだい。」
 せっかく実家に帰ってきたのに今日は一日だらだらとしている私を見かねたのか、そうお母さんに言われ私はスーパに来ていた。
 ドラッグストアやクリーニング屋などが併設されたこのスーパーは、ここら辺ではなかなかの大きさを誇るお店で、小さい頃は来るだけでテンションが上がっていた。
 娯楽施設が少なかったため高校生の頃はこのスーパーに併設されているひと際大きなフードコート兼イートインコーナーで友人たちと他愛もない話をして盛り上がっていた。

「ねえ、久しぶりにここで食べてかない?」
 買い物が終わると私はお母さんにそう提案した。
「でもいっぱいお買い物しちゃったし……」
 渋るお母さん。
「お願い!」
 私がそう言うと、しょうがないわねえ、と言いながら、お母さんはオッケーしてくれた。

「懐かしいなあ。」
 席に着いた私はあたりを見回しながらそう言った。
「よく来てたもんね。」
「うん。それこそあれよ、バンド会議だってよくここでしてたんだ。」
「ああなんだっけ、ロザリオだっけ?」
「だから違うってば。いつも間違えるんだから。リオ☆ロザね。」
「ああそうだったわね。」

 高校に入ったらバンドをやろう、そう思っていた私は入学してすぐに軽音部の門を叩いた。
 楽器なんてほとんどやったことはなかったけど、なぜか自身に満ち溢れていたのを覚えている。
 ゴールデンウィークを迎える前には軽音部で知り合った同級生たちと四人組バンド「リオ☆ロザ」を結成。私はそのバンドでドラムとして活動を始めた。
 初めは普通の同級生だったけど、話すうちにどんどん仲良くなっていって、音楽の好みが四人とも似ていることもあって組むことになったのだった。
 そういえばそんな話をしたのもここだったなあ。
 それから発表会や文化祭など、演奏の場面があるたびによくこのイートインコーナーに集まって、作戦会議と称して色んな話をしていたのを今でも覚えている。

「もしかして、しーちゃん?」
 声のした方を振り向くと、そこには見慣れた女性が。
「え、チッカ?」
「そう!え超久しぶりじゃん!」
 チッカはテンションが上がったのか大きな声でそう言ってから、私のお母さんを見つけ冷静になった。
「あすみません。私、しーちゃん、じゃなかった、紫月さんの高校時代の同級生で一緒にバンドを組んでいたと小出千景と申します。」
「ご丁寧にどうも。紫月の母です。」
 チッカはまだ興奮冷めやらぬといった感じだった。

 せっかくだから楽しんできなさい、とお母さんは私にお小遣いを渡すと、帰っていった。
「でも本当に久しぶりだよね。」
「うん、夏休みは色々忙しかったから帰れなくて。」
「そうだったんだあ。せっかくなら連絡くれればよかったのに。」
「一昨日の夜に帰ってきたばっかりで、昨日はおばあちゃん家に行ったりしててね、そろそろ連絡しようかな、と思ってたんだ。」
「そうだったんだ。でもまさかこんなところで会うなんてね。」
 チッカは笑いながらそう言った。
「なんか久しぶりにここに来たらついつい立ち寄りたくなっちゃって。」
「私も買い物には来るけど、ここに立ち寄るのは久しぶりかも。」
「高校生の頃はほぼ毎日来てたのにね。」
 そんな他愛もない話をしながら私はチッカとの久しぶりの再会を楽しんでいた。
「しーちゃんは、今もバンドやってるの?」
「ううん、やっぱりあの四人が楽しかったから、今は学園祭の実行委員会に入ってるんだ。」
「そうなんだ。私ももう全然歌ってないなあ。」
 チッカはリオ☆ロザのボーカルで、可愛い見た目からは想像できないほど迫力のある歌声の持ち主だった。
「ねえ、今度どっかのスタジオ借りて久しぶりに四人で演奏しない?」
「いいかも!」
「それこそネットとかにアップしてさ、もしかしたら流行っちゃうかもよ?」
 チッカは冗談っぽくそう言った。
 そんな簡単な世界じゃないことは分かってるし、何より私たち自身、そういう道に進もうと感がているわけではない。
 でも久しぶりに四人で何かができる気がしてとてもわくわくしたのだった。
「やっぱりここにくるといいことあるね!」
「え、何それ。」
 チッカは笑いながらそう言った。

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