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早乙女ぐりこ著「東京一人酒日記 〜丸の内SAKEスティック編〜」読書感想文

【挨拶】
酒を飲む女性が好きだ。
姿勢を崩さず飲む女性も、べろべろになるまで飲む女性も、何かに媚びない感じがどうにも魅力的に感じる。今回感想文を書かせて頂く作品「東京一人酒日記 〜丸の内SAKEスティック編〜」の作者、早乙女ぐりこさんもどうやらかなりの酒好きらしい。文学フリマの会場で元気よく声をかけられて、酒飲みの女性の書く本ということでつい手に取り、酒を飲んで書いた文章をまとめたもの…と紹介をうけたところで「くっだらねーもん作りましたね!」と声に出して言ってしまった。勿論即購入した。

しかしこの本の中で、作者は何かと理由をつけて飲んでばかりでいる。
昼から飲み、夜まで飲み、深夜も飲み、記憶を無くしてサイフもカバンも失くす、といったことがどうやら少し前まで日常であったらしい。しかしなかなかどうして、酔っ払いの書く文章は、かくも人を惹きつけるのだろうか。
今回はそんな作品の感想と魅力を少しだけお伝えしたい。

作者の文章について

初っ端から作者を酔っ払い呼ばわりしてしまったが、この作者は実に文章が上手い。とりわけ情景を想像するために必要な情報を抜き出して書き出すのがズバ抜けて上手い。エスニック、アジアン系の居酒屋や赤提灯、イタリアンバルなど様々な店に訪問されているが、必要最小限の文章でどんな店かがある程度理解でき、しかし読者の想像の余地が残されていたりと、理解と想像の距離感を描写するのに非常に長けているのだ。
また内容も三十路に差し掛かる女性らしい悩みや、独りでいることの寂しさや気楽さをあっけらかんと、ただし正直に書かれており、メインのテーマを「酒」としているからあまり感じられないかもしれないが、書かれていることはとても内向的な、独りの人間としての本音が書かれていると感じた。人生を経たからこそ言える青臭さと、まだ他人に対してバリアフリーになれないジレンマを、作品を通じて作者の性格とともに味わえるのではないだろうか。

以下、読書感想文

購入する前は店のレビューをまとめたものか、もしくは酒を飲むことで現れる本性と対話する(いわゆる愚痴)をこざっぱりとまとめた作品なのかと想像していたが、いい意味で期待を裏切られた。

表向きは丸の内沿線のちょっと女性一人では入りにくいような店に入ってみた体験記のような風体をしているが、裏向きは自分の人生や生活を振り返り、反省して情けなくなったり、自問自答を繰り返す、要はひとの思考を垣間見る疑似体験ができる作品なのかと思う。仕事と日々の生活に忙殺され、思いもよらぬ出来事や人との出会いに期待しながら酒を飲むーーーそこには実にいじらしい、シンプルな人との出会いを求める一人の女性としての姿があった。ここで作品の中の一節を紹介したい。

好きなものややりたいことに全力投球して、後先考えずに直感と勢いで進んでいく。そういう生き方をしてきたことを後悔しているわけではなくて、そんな人生をむしろ愛しているけれど、時々選ばなかった人生に思いを馳せてしまう。気まぐれで頼んだセットメニューには居心地の悪さを感じてしまう。誰にダメ出しされたわけでもないのに、私はいつも、酒を飲みながら人生の選択の答え合わせをしている。

この一節に作者の性格とキャラクター性を感じられる。なるほど酒を飲むという行為は正当化と言うよりは答え合わせなのかと、ひとりごちて納得した。

今作は浅いようで深い、少し内向的な、勢いのある自白エッセイだと私はとらえている。作者の繊細な心とそれ故に悩む事象のそれらを都度酒で綺麗に洗い流しているエッセイなのだ。
冗談ではなくお酒を飲みながら作品を読んでいると知らないうちに頷きながら読み進めている自分がいて、その瞬間に今作の奥深さを思い知ることになる。

ギネスビールを飲みながら、一気に読みました◎

私的テーマ曲

丸ノ内サディスティック / UNCHAIN
https://youtu.be/sboYFLyoT6I
原曲:椎名林檎も勿論良いのですが、今回は敢えてこちらで。



【備考】
早乙女ぐりこさんはとても律儀な方で、わざわざ文学フリマで客として訪れた私のことをnoteに書いて頂きました…。ツンデレすみません、テンション上がったんです…。

早乙女ぐりこさんの文学フリマ当日の記事はこちらから
早乙女ぐりこさんのnoteへ


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