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レストラン店名の危機(その7)

■あらすじと登場人物

 登録商標「SOLEIL」の権利者である(株)ソレイユから,洋食レストラン「キッチンソレイユ」の名称を変更するよう警告書を送られたAさん。これに対し,「キッチンソレイユ」は,(株)ソレイユと改称する前の太陽食品(株)からのれん分けを受けたものであり,また「キッチンソレイユ」には先使用権があるという回答書を送った。

 【Aさん】:今回の相談者。有限会社ソレイユの現代表で,洋食レストランの「キッチンソレイユ」を経営。
 【先代】:Aさんの父親。「喫茶ソレイユ」で修行後,有限会社ソレイユを設立し,江戸川区小岩に「キッチンソレイユ」を開店。すでに亡くなっている。

■商標権者からの返事

前回の打ち合わせから数週間後。

O2R「株式会社ソレイユから返答が来ました。簡単にいうと,のれん分けはしていないし,周知性も認められない,のれん分けと周知性があると言うなら証拠を見せろという内容です。」

Aさん「見せないといけなんですか?」

O2R「見せないとすぐ裁判になるかもしれないですね。本心では裁判ではなく示談にしたいものの,それを相手方に悟られると交渉で不利になります。できれば,有利な証拠をそろえた上で,『訴えるなら訴えてみろ,いつでも受けて立つ」という強気の姿勢を示したいところです。証拠を見せるかは,一通りそろってから考えましょう。それで,新しい証拠はありましたか。」

■新しい証拠

Aさん「ええ。『キッチンソレイユ』開店時の証拠がいいって話だったんで探してみたら。開店した日に店先で撮った写真があってね。先代の左に,開店祝いの花輪があるけど,その一つが太陽食品から送られたものだったよ。」

O2R「少しぼやけてますが,『太陽食品株式会社/祝開店/キッチンソレイユさん江』と読めますね。店名を認識した上での円満な独立だったことがうかがわれるので,のれん分けがあったことを示す状況証拠としてはかなり有力だと思います。」

Aさん「広告も一つ見つかってね。たまに一枚ものの大きな住宅地図が無料で配られるじゃない,それにお店の広告を出してたよ。」

O2R「ありがとうございます。配布エリアはどうですか。」

Aさん「確か小学校の学区がベースじゃなかったかな。」

O2R「折角見つけてもらったんですが,配布エリアが狭すぎて,周知性の証拠としては弱いですね。少なくとも江戸川区と隣接する市区町村での広告がほしいです。」

■メディア掲載と周知性

Aさん「広告じゃないけど,テレビで紹介されたことがあってね。俳優○○が,下積み時代の思い出の街を歩くという番組があって,昔うちにもよく来てくれていたんで,お店で撮影があったよ。これがそのときの写真。番組はVHSテープに録画してある。」

O2R「そうですね,その番組は,直接的には,俳優さんが有名だということを示す証拠かなぁ。でも,間接的に『キッチンソレイユ』が有名だという証拠になると思います。何より放送エリアが広いのがいいです。」

Aさん「あと,これがとっておきなんだけど,雑誌の『○○ウォーカー』に紹介されたことが3回ほどあってね。オムライス特集で1回,街の洋食屋特集で1回,実は暮らしやすい穴場の街特集で1回。実物も持ってきました。」

O2R「おぉ,期待できますね。『SOLEIL』の出願より前の発刊だといいのですが。(雑誌をめくる。)発行日を見てみると,穴場の街特集は出願後みたいだけど,オムライス特集と街の洋食屋特集は出願前だね。これは使えると思います。」

Aさん「これで先使用権は認められそうですか。」

O2R「『○○ウォーカー』なら東京周辺で発売されてましたから,江戸川区だけでなく東京周辺で有名だったという証拠として,今まで一番有力ですね。これで,結構いい勝負になると思います。」(つづく)

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