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2023年1月の新譜記録

こんにちは!タイトルの通り、私が1月に聴いて良いなあと思った新譜について、簡単な感想コメントとともにまとめておく記事です。

個人的に、今月は修士論文の提出と口頭試問とで忙しめだったのですが、逆に言えばそれくらいしかすることがなかったので、音楽は(新旧問わず)割と聴けた気がします。こういう忙しいタイミングで聴いてた曲って後々その時期の記憶と結びついてくるんだよな、良くも悪くも……

良かった新譜

アルバムタイトルを押すとsongwhipのページに飛べるので、気になった方はそちらからどうぞ!

After the Magic / Parannoul

まずはParannoulの新譜。今年は今のところこれが一番好きです。

歌詞に描かれた青春の終わりは、2年前の衝撃が過ぎ去り、インターネットの特異点としての役目を終えつつある彼の姿をその相似形として描き出しているように思います。私の好きな『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない(桜庭一樹)』という小説には、ある種神秘的な魅力を持っていた主人公の引きこもりの兄が、数年ぶりに家を出た途端にその神性を失ってしまう、という描写があるんですが、おそらくParannoulにもそのような瞬間が訪れたのでしょう。しかし本作では、それを他でもない彼自身が、2年前よりも格段に力強く洗練された爆音・轟音で祝福しています。無名の宅録作家から一躍インターネットのカルトスターとなったこの2年間を「Magic」と呼び、それに別れを告げて外へ踏み出すタイトルと、こうした力強い音像からは、自身が形成してきたシーンを超えて改めて音楽家としての自己を確立させる覚悟を感じます。これもうシン・エヴァじゃん……

ジャケットに描かれた通りの、美しいノイズに彩られた光と希望のアルバムです。本当にありがとう、おめでとう。

Married in Mount Airy / Nicole Dollanganger

カナダのシンガーソングライター。フォークやドリームポップをベースにしたゴス風味の陰鬱なオケと、ウィスパーボイスとも言えるあどけないボーカルの組み合わせが、絶妙に不気味であり、その裏返しで神秘的でもある唯一無二の作風です。Skullcrusherとか好きな人に刺さると思います。

Green Unleaded are the Product / Green Unleaded

エディンバラのバンドということ以外ほとんど情報が見つけられない謎のグループ。90年代以降Curveなどが試みてきた、シューゲ〜ドリームポップ的なノイズとエレクトロなビートやヒップホップとの組み合わせを、最近のインターネット音楽やベッドルームポップの耽美的でdepressiveなモードで仕上げた感じ。RYMだとそこそこ好評な割にSpotifyの再生数はあんまりですが、私はめちゃくちゃ好きです。

animacy / 衿

新世代、異形のボカロP。カルチャーの発展・散逸とともにボーカルシンセサイザーの選択肢の一つと成り果てた電子の歌姫・初音ミクの「再神格化」という、いわば現実と非現実の垣根を超越するオタク的な偏執を、インターネットを漂うドラムンベースの亡霊と初音ミクを融合させることで強引にも実現した怪作。6曲12分のスピード感、その最後を正統派の初音ミクの歌モノで締める構成、そして全ての曲に初音ミクをクレジットする徹底さなど、作家性を鮮烈に刻みつけた素晴らしいデビュー作です。
どうもまだかなり若い学生さんらしいのですが、日本の電子音楽シーンってなんでこんなに早熟な作家が多いんですかね。imoutoid然り、長谷川白紙、Telematic Visions然り……

どこにもいけないドア / Lady Flash

相対性理論、フレネシ、夙川ボーイズ以降の日本のローファイなポップのユーモアを、近年のアジアンインディーやCaptured Tracks風のサウンドで包んだ、ありそうでなかった質感の超キャッチーでキュートなギターポップ。意味があるのかないのかわからないシュールな歌詞にも脱力感が溢れていていいですね。

MERCY / John Cale

元ヴェルヴェッツのJohn Cale、御年80歳にしての新譜。リバーブ深めの耽美的で不穏なシンセサウンドがずっと鳴り響いていて最高。実際に参照してるのかは分からないものの、なんとなくVaporwaveの意匠とその薄気味悪さ(それゆえの魅力)を踏まえたポスト・インターネットの実験音楽という感じがします。80歳でこれ作れるのヤバすぎませんかね……

映帶する煙 / 君島大空

君島大空ってずっと存在感ありますが、フルアルバムはこれが初めてなんですね。凄腕の合奏形態(西田修大、新井和輝、石若駿)の演奏や、壮大なアレンジが施された中に、宅録ミュージシャン的な鋭い孤独さの美学がこれまでよりもはっきりと通底している(時に不条理な歌詞、謎めいた曲名、緻密なアレンジワークなど……)気がして、聴き込むほどにゆっくりと深く染み入るものがある作品だと思います。かなり好きです。

タオルケットは穏やかな / カネコアヤノ

直前に出たライブ盤も素晴らしかった、カネコアヤノの新譜。日々の暮らしの機微を拾い上げる感性は変わらず発揮されている一方、これまでと比べるとパーソナルな視点が多めなのかなと思いました。個人的な気分の浮き沈みや孤独(大きなガスタンクの前に一人で座るジャケットもそんな感じがする)を丁寧に描き、それらをゆるっと自己肯定してみせる歌詞は、他者であるリスナーにも優しい言葉をかけるようで、私はかなり好きでした。サウンドの面でも、随所に感じられるギターへの偏愛が過去作よりも強まったように思います。一曲目「わたしたちへ」や表題曲「タオルケットは穏やかな」の暖かな轟音ギターは必聴。総じて、包み込むような優しさに満ちた作品だと感じました。

Let's Start Here. / Lil Yatchy

アメリカのラッパー。ヒップホップからファンク、ソウル、ロックを包含した、さながらSlyの『暴動』のようなドロドロしたファンキーでグルーヴィな音楽性を、サイケデリックでドリーミーな雰囲気で仕上げた、そんなん最高に決まってんじゃんというディープな高揚感に溢れた傑作。酔っ払った状態で爆音で流したら最高だと思う。AI絵っぽいジャケットも気味悪くていいですね。

portrait of a dog / Jonah Yano

広島県出身で、現在はカナダ・トロントを拠点に活動するソウル〜R&Bのシンガー。ジャズやR&Bのグルーヴと、サイケやフォーク、エクスペリメンタルロックのヒリつくテンション感がシームレスに接続された、不思議な浮遊感と美しさを持った非常に心地よい作品です。ここの接続ってこんな滑らかに行くんだ……と思いましたが、確かに気持ち良さ的には相通じるものがあるのかも?ぜひ一度生で聴いてみたいです。

Prize / Rozi Plan

ロンドンのインディーポップミュージシャン。音数は決して多くなく、むしろ最小限ぐらいのサウンドじゃないかというようなアプローチですが、どの曲も絶妙なフックとなるリフを核に備えているのが面白いアルバムです。キャッチーだし、アルバムを通して飽きが来ない作品になっています。寝る前とかに聴くといい感じでした。

行 / 5kai

Twitterで回ってきて知ったバンド。かなりヤバい音してます。サンプリングも多用された、鋼のように硬い音とリズムが複雑かつ性急に折り重なる一切捉えどころのない音像。あえてジャンルで考えるとすればポストロックになるんだと思いますが、始めから終わりまで聴いたことのない音楽が鳴っていて、耳を離すことができないアルバムです。めちゃくちゃかっこいい。

おわりに

上で挙げたもの以外だと『NO MORE LOSSES / Kaho Matsui』もかなり好きだったんですけど、それ以上の適切な語彙を持ち合わせていない(特に、アンビエントに関してはかなり勉強不足……)気がしたので、ここは今後の課題としたいですね(ダメ大学院生の口癖)

1月は本当に爆速で過ぎてしまったので、残りの学生生活2ヶ月は大事に生きていきたいと思います。聴き逃して積んでいたアルバムとか、観られていない映画、読めていない本とかをなるべく消化して出られたらいいなと思います。

今後ともよろしくお願いします!


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