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現代人はいつも何かのために忙しい


現代の子供は忙しい。

朝の8時前後には家を出て、それから16時ごろまで学校に拘束される。

『中学生・高校生の生活と意識調査2022』によると、中学生の部活加入率は約8割だという。

部活をやっている生徒が解放されるのはだいたい18時~19時だ。


今は少なくなったようだが、いまだに「朝練」をする部活もあるらしい。

その場合、だいたい6時台には家を出て19時ごろに帰宅する。

しかも同調査によれば、中学生のおよそ半数が塾に通っているそうだ。

これでは自由に使える時間などほとんどないだろう。


高校に入ってもほぼ同様だ。

高校生の部活加入率は約7割である。

通塾率は3割程度まで下がるが、多くの生徒が忙しい生活を送っている状況に変わりはない。


大学は人生でもっとも遊べる期間だと言われる。

ところがマイナビの調査によれば、大学生の7割はアルバイトをしているという。

大学に通いながらバイトもするとなると、やはりそこまで自由な時間は多くない。

理系であればなおさら忙しいだろう。

おまけに3年からは就活も始まる。

(僕は1秒も就活することなく大卒フリーターの道を選んだが……)

学生は学内・学外の単独・合同を合わせて、100社を超すほどの企業説明会に出て、数十社に応募書類を送り、たいてい10社から30社で面接までいく。それでも、半年で就職活動が終わればいいほうで、一年あるいは1年半続けても内定が取れない学生も少なくない。

森岡孝二『就職とは何か』岩波書店


会社に入ったら、今度の忙しさは働けなくなるまで続く。

出世のために、会社のために、家族のために、老後のために、働き続ける。

どんなに仕事が辛くても辞められない。

まともな社会人でなければ……という強迫観念が退路を塞ぐ。


「みんなそうだよ」

「社会人なんてそんなもんだよ」

そんな常識人たちの言葉をたえず聞かされるうちに、不満や違和感は薄まっていく。

やがて認識できなくなるほど薄まった頃には、もはや世の中の常識が自分の中でも常識となっている。


こうして立派な社会人へと"成長"した者は、いつも何かのために今の自分を犠牲にする。

いつも何かのために忙しい。

一体いつになれば、何かのためではない自分の人生を味わうのだろう。

未来を見やって、現在の意味はそれが将来にもたらすものである、と考える習慣は有害なものである。部分部分に価値があるのでなかったら、けっして全体に価値があるはずがない。

バートランド・ラッセル『ラッセル著作集6』片桐ユズル訳、みすず書房.


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