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京都の街角の小さな物語

ガヤガヤと夜の交差点は騒めいている。
人の叫声、笑い声、
パッパーっと車のクラクションが鳴る音
耳を澄ませば彼方こちらで賑やかな音が聴こえた。
クリスマスソングが響く街で、
皆んな楽しそうに浮き足立って歩いていた。

土曜日の夜
明日は休みだからか、
仕事のしがらみから開放された人たちが
梯子酒をして、次の店へと向かうその頃

俺は街の片隅でギターを弾いていた。
正確にいうと今から弾き語りをしようとしていた。

アンプの持ち運びにも限界があるから、
大きなものは持ってきていない。
風の音と人のざわめきで、
かき消されてしまうかもしれないその中で
まさに今ギターを弾こうとしていた。

夜の風が頬にあたり、冷たい。
某スポーツメーカーの
紺のウィンドブレーカーを着てギターを弾いて歌う。それが俺の日課だった。

歌手になりたいやつなんて、ごまんと居る。
俺は何のために歌うかなんて深くは考えていなかったけれど、ただ内側から溢れてくるものを曲にして歌った。

歌い始めると、初めは1人そして2人と立ち止まってくれた。

いきなり道行く人が全員止まって、
聴いてくれるなんてそんな夢物語はそうそう起きない。

だけど俺は諦めたくなかった。

いや、いつか誰か1人でも
お前の歌いいね!と言ってくれる誰かがいてくれたらそれで良かった。
初めて俺がギターを触ったのは、
中学生の頃だった。
俺の親父が誕生日に買ってきてくれたのがきっかけだった。

当時BUMP OF CHICKENがめちゃくちゃ流行ってて、俺も多分に漏れず夢中になった。
ギターってカッコいい!!

最初は弦を押さえるのも、
Fコードを覚えるのも難しくて嫌になりそうだった。

だけど、カッコよく弾けるようになりたい
その一心で俺は毎日学校から帰ってきたら懸命に練習をした。
初めてライブしたのは、親父の主催するライブハウスでのこと。
俺は大好きだった車輪の唄をカバーして歌った。
その親父はもういない。

突然親父が倒れたとき、
母さんはどんな気持ちだったんだろう。
そして俺たちをどんな気持ちで育ててくれたんだろう。

歌にしたいことは山積みにある。
普段は照れくさくて言えないことも、
歌にしてなら言える。

俺は…

そのとき、ふいにアイツが突然現れた。
中学からの腐れ縁の幼なじみ。
そして一言アイツはこういったんだ。

「俺もその演奏にまぜろや」
そしてベースを片手に飛び入り参加してきた。

冬の京都の街角
演奏に厚みが出て、曲がうねりを持って動き出す。

もう間も無くクリスマス
今かき鳴らすこの歌は誰かの耳に…そして
ギターを引き連れて俺に音楽を届けてくれた
親父の耳に今届いているだろうか

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