今日から変わる新しい関係
今日も、もう少ししたら
あいつがやってくるころだ。
バタバタと廊下を走る音が聞こえる。
すると間もなく扉が開くのだ。
あの野球馬鹿を好きと自覚して、
そんなにまだ経っていない。
あいつとは幼なじみで腐れ縁で、
幼稚園からずっと一緒で親同士も、
仲が良かったから自然といつも一緒にいた。
特別でもなければ、何でもない
それが長年続くあいつとの関係、
その筈だった。
案の定クラスの扉がガラッと開き
「操ー悪いけど教科書貸して」
と図体のでかいあいつが言ってきた。
「あーもー!うるさいなぁ」
いつものように英語の教科書を渡す。
あいつとは違うクラスだけど、
毎回大体同じ時間に教科書を借りに来るから、自分のクラスでもない授業内容も覚えてしまった。
「さんきゅー」
教科書を受け取るやいなや、
サッサと自分のツレと一緒に教室に戻ってしまった。
「なんでわざわざ違うクラスの私のとこに
借りにくるんだろ」
アイツの行動は時々掴めないことがあった。
いつも台風のように教室に訪れては、教科書を借りそして一緒に帰ったときに返すのだ。
それはもはや私の中の日課のようになってしまっていた。
そもそもあいつのことを好きと、
自覚したのだって、これが原因だった。
「ねぇねぇアンタ、龍生(りゅうせい)くんと
どんな関係なわけ?」
あるとき、授業が終わり、
吹奏楽の練習に行こうとしたら龍生と同じクラスの女の子が呼び止めてきた。
「え、ただの幼なじみだけど?」
名前も知らないその子は、私の言葉に納得する様子もなく
「ほんとにそれだけなの?
龍生くん、私が教科書貸すって言ってもアンタに借りるから良いって断ってくるんだけど」
その目は何か恨みをかってしまっているような、怖い目で私を睨みつけていた。
「そんなこと言われても、知らないわよ。
急いでるから行くね」
深く関わっても良いことがないと判断した私はその目を見返すこともなく、
それだけ言い捨ててその場から去ろうと思った。
だけどその子はきびすを返した私の後ろで畳み掛けるようにこう言った。
「待ちなさいよ、アンタだってこれみよがしに龍生くんを呼びにきたり、一緒に帰ったりしてるじゃない。本当は好きなんじゃないの?!」
そのときは正直戸惑って何も言い返せなかった。
私が龍生を好き?!まさか?
だけど今日みたいなことが、初めてだったわけじゃない。認めたくないけど、多分龍生はモテてて仲の良い私は嫉妬されてるんだ。
その日はどうにか
「龍生はただの幼なじみだから」と答えてその場は逃げてきた。
だけど何故だか《ただの幼なじみ》
自分が発したその言葉に深く傷ついている自分もいた。
今まで考えたこともなかったけど、
もし今後龍生に好きな子が出来て、
今までみたいに一緒に帰れなくなったら正直イヤだなと思った。
「…お、操 おいっ聞いてんのか?!」
呼ばれてハッと気づいた。
いけない、何を考えてるの
もうとっくに放課後になり、
龍生との待ち合わせ場所で呼び止められた。
「んーん、別に何もないよ」
そういうと龍生は、
私のおでこに突然手を当ててきて、
「ンー熱はないな。
お前結構風邪ひきやすいから気を付けろよ」と言ってきた。
ばか龍生、なんでそんなことするの
心では思うけど、言葉には出来ない。
「ほら、マフラー貸してやるから巻けよ」
龍生はグルグルと大袈裟にマフラーを巻いてきた。
「…龍生、そんなことしたら他の子に勘違いされちゃうよ?」
「あ?何が」
「変に私たちの仲を勘ぐられるというか…」
すると龍生の動きがピタリと止まって、
一言ボソリと小さくこういった。
「別にいいよ、お前となら」
え、それってどういう意味…?
「とにかく…お前もし誰かに何か言われたらすぐ俺に言えよな。ほら、行くぞ!!」
そうやって龍生はその答えをはぐらかすように先に行ってしまった。
正直この後、私たちの関係がどうなるのかなんて分からない。
だけど…だけど私は龍生の傍にいたい。
その気持ちを大切にしようと、龍生の元へと走っていった。
その私たちの後を2人の長く伸びた影が重なってついてきていた。
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