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創業59年の町工場が、事業承継を経て社内のDX化を実現。「不安しかない」スタートから次のビジョンを描くまで

「実は、弊社の製品は新幹線にも使われていて、東北新幹線を走っている車両のデッキにある点字プレートを手掛けています。でも、そこにプレートがあること自体を知らない人がほとんどなんですよ。」そうお話しくださったのは株式会社ケミカルプリントの髙橋社長。

東京・青梅市に本社を置き、ステンレス銅合金、アルミニウムなどの材料を薬品を使用してエッチング加工する高度な技術を持っています。

「70代以上の経営者でも、3割弱は後継者が決まっていない」ーーそんなデータもありますが、ケミカルプリント社も経営陣の高齢化と後継者不在を理由に事業継承に踏み切りました。ただ、実は数年前から事業承継を検討してはいたもののなかなか進まなかったという背景もあったそうです。

NYCへの事業承継から1年が経ち、今だから話せる当時の苦労や社内の不安、「今年一年をどうやりくりするか考えるだけで手一杯だった」という状態から、将来を見据えて戦略を立てるようになるまでの変化を、経営者・現場の両方の目線からお伺いしました。

お話を伺った方
株式会社ケミカルプリント 代表取締役 髙橋氏
同社 経理部部長 野上氏

株式会社ケミカルプリント
ステンレス、銅合金、アルミニウムなどの材料を薬品を使用してエッチング加工する専門企業。1965年の創立から一貫して高品質な製品の提供を行っており、業界内での評価も高い。2023年3月にNYCが全株式を取得。
https://www.chemical-print.co.jp/


80代になってから考え始めた事業承継。親族のサポートもありM&Aを検討

株式会社ケミカルプリント 代表取締役 髙橋氏

ーーまずは、事業と会社についてお聞かせください。

髙橋社長
元々は社名にある通り印刷の会社として事業を始めましたが、10年ほどで方針転換し現在の金属加工業となりました。小規模ながら取引先企業の信頼も厚くエッチング加工の技術には定評があります。

エッチング加工は塩化第二鉄液などの薬品による腐食作用を利用して金属を溶解加工する技術です。高い技術が必要とされますが、プレス打ち抜き加工では再現できないバリ・歪みのないフラットで高品質の製品を生み出すことでお客様の要望に応えてきました。

青梅市に移転してからは現在の業態ですが、そういった創業の経緯もあり長らく電話帳の”印刷会社”のページに弊社は載っていたんですよね。それを見て印刷関連の問い合わせをいただくこともあり、弊社の営業が困惑していた、なんてこともありました(笑)。

今年で創業59年になりますが、移転したのが年号が平成に変わった頃でした。そのタイミングで入社し、平成丸ごと弊社で過ごしたという社歴の長い社員が多いです。青梅近辺に住んでいる方がほとんどで地域に根差して事業を発展させてきました。

ーー経営陣の高齢化と後継者不在を理由に事業承継を決断されたとのことですが、いつ頃から事業承継を検討され始めたのでしょうか?

髙橋社長
実は、弊社の会長が80代に差し掛かってから事業承継に向けて動き出してはいたんです。ただその時に相談したのは金融機関やお世話になっている税理士さんでした。それぞれあまり事業承継にお詳しい方ではなかったので話は進まないまま、時間だけが過ぎてしまいました。

そのうちに会長の健康面での心配事が増えてきたので、いよいよ会社の今後をどうにかしなければ、と周りが動き出しました。幸い親族に事業承継やM&Aに詳しい方がいたので、その方にアドバイスをいただきながら比較的早めに結論が出せる投資会社への株式譲渡に踏み切ったという流れです。

私自身は当初は同業者との事業提携を、という気持ちが大きかったのですが、時間に限りがあったこと、お話があっても結局折り合いがつかなかったという経緯もあります。

中長期の保有が決め手に。内側からの変化を促しながら、成長のビジョンを描いていける

ーー限られた時間の中での決断は不安もあったかと思いますが、NYCにはどんな印象を受けましたか?

髙橋社長
まずは皆さんお若いですよね。年齢も若いですし、会社そのものも若いでしょう。ただ複数の会社と話し合いをする中で、弊社のこれまでの技術と社員を守っていくことを考えた時にNYCは投資先を短期で売却しないという点に惹かれました。

弊社は長く働いていただいている従業員も多く、会社への愛着もあり地域にも馴染んでいますので、従業員の雇用をこれまでと同じ条件で続けていただきたい。そして、会社の今後を考えた時に若い世代のNYCに中長期でサポートしていただくことで社内に新しい風を入れることができたらと考えました。

ーー当初は同業者とのM&Aもご検討されていたと伺いました。期間の課題もに加えて、他に懸念点などあったのでしょうか?

髙橋社長
同業者や、他業種でも同じようにものづくりをしている企業とのM&Aを考えていた時期もあります。お互いの技術を持ち寄り、シナジーを生み出していけるんじゃないかと。

実際にお声掛けいただいた会社へ工場見学に行ったこともありましたが、事業の規模感や工場のスペース、単価設定などの点で折り合いがつきませんでした。競合相手なので手の内を明かすのも難しい。とはいえM&Aでなくとも、今後BCP対策など考慮して提携相手を考えていく必要はあると考えています。

ーー様々な手段を検討される中で、最終的に決め手となったのは、どんな点でしたか?

髙橋社長
社員の雇用継続が前提ですが、NYCの会社設立の経緯や社名の由来にも共感できました。

優れた技術を持っているにもかかわらず、後継者不足や成長鈍化に悩む中小企業を次の世代に繋げていくため中小企業投資をする会社であると。従来の短期間での売却を前提にしたM&Aではそれが実現できないため、NYCを立ち上げられたと伺いました。

だから、正式にNYCへの事業承継が決まった時も不安というのはあまりなく、きちんとこの技術を継承し次代へ向けて一緒にやっていこうと、そんな気持ちでしたね。

我々の仕事もほとんど黒子です。新幹線車両の点字プレーㇳのように目に見える製品は少数ですが、車のフィルターや医療機器の内部部品など、実は色々なものに使われており、見えないところで暮らしを支えています。

弊社の製品や技術は目立つものではなくとも代わりの利かないものばかりです。会長も高齢ですし、NYCへの事業承継が決まったことで、今後も弊社の事業が継続されることや製品が供給されることへの安心の声も届いています。

NYCに事業承継し、バックオフィス体制が一新。「もう、紙は使っていません(笑)」

ーーいざNYCへの事業承継が決まり、野上さんをはじめ、現場の従業員の方はご不安もあったと思います。当時の心境はいかがでしたか?

野上さん
最初はやっぱり不安でしたね。正直言って社内でも不安しかない、不安だらけという言葉が飛び交っていました(笑)。

事業承継をすることで何がどう変わるかもわからなかったのですが、社内での説明会などを経て「事業そのものや待遇面で今までと変わることはほとんどない」と仰っていただいたので、そこは安心できました。

ーー実際にNYCが関わらせていただくことで、社内でどんな変化を感じますか?

野上さん
そもそも思いっきりアナログな会社だったんです。会長もいわゆるそろばん世代ですから。そこにNYCが入ることでDXがどんどん進んで本当に効率が良くなりました。特に在庫管理を始めバックオフィス体制は一新して、すごく楽になりましたね。

バックオフィスは私がほとんど対応していますが、元々私は20年以上工場で勤務していた経緯もあり、その分野への知見が深いわけではありません。社内に新しい提案をしてくれる人もおらず、引き継いだ業務をそのままこなすだけでした。

紙での管理しかしてこなかったため書類を探すだけでもすごく時間がかかっていましたが、NYCが入ったことでクラウドシステムも導入され、クリックひとつで欲しい書類がサッと出てくる。もう、紙は使っていません(笑)。

ーーそれは嬉しい変化ですね!現場の仕事が手一杯で新しいことを始められない、知見がないから何を選んだらいいかわからず手を付けられない、という中小企業は多いと思います。

野上さん
私を始め弊社は社内のほとんどが技術畑の人間なので、例えば売り上げが上がっても下がっても、どうすることもできずただ待つしかない、という状況でした。

これまではとにかく目の前の仕事をこなす、その一年をどうやりくりするかを考えるので手一杯でしたが、今はNYCが経営のサポートをして計画を立て、様々な提案をしてくれます。マッチングサイトの利用からホームページの改修まで、将来を見据えて計画的に動いているというのを感じますね。

自分たちだけで日頃の業務と並行してこれらを進めるのは不可能でしょう。NYCは私たち現場の声を取り入れながら、会社を次のステージへと導いてくれる存在です。

早めの対策と適切な相談相手を見つけることが、社内外の安心材料になる

ーー少子高齢化が進み、後継者問題を抱える中小企業は年々増えています。今回の事業承継を経て、同じような悩みを抱えている経営者の方へ、どんなことを伝えたいですか?

髙橋社長
NYCへの事業承継は、総じて良かったと思います。弊社の会長も高齢ですし、周りの町工場も同様に年齢が上がってきていると感じる中で、事業を継続し、これからも変わらず製品を供給できることは社員にとっても、取引先にとっても安心材料になったでしょう。

ただ、事業承継自体は経営陣の年齢を考えても、80代からと言わずもっと早くに取り組むべき問題でした。いずれその時が来ることはわかっていますので、段取りを考えておけば良かったと感じています。

また、事業承継をするにあたって適切な相談相手がいなかったという課題もあります。金融機関や税理士に相談してはみたものの、話が進まなかった。たまたま我々は親族に詳しい方がいたのでそこからスムーズに進みましたが、経営者は自分ひとりで悩みを抱え込まず、事業承継に向けて早めに相談して動き始めたほうがいいですね。

担当者の声

左:NYCシニアアソシエイト 梅本

シニアアソシエイト 梅本より
当社は小規模ながらも優れた技術によって超微細・極薄の加工を実現しており、大企業の取引もあり高い信頼を得ています。まずは課題であった人材採用やバックオフィス業務のDXなどを通じた土台固めをしっかりと行い、事業の継続性を確保しつつ、そのうえで当社の技術力をHP等を通じて世の中に発信していくことで、業績の更なる向上に努めてまいります。

▼NYC株式会社について

NYCは「中小企業投資の変革を通じて、昨日より良い社会を実現しよう」をミッションに、優れた技術やビジネスモデルを持つ優良企業であるにもかかわらず、事業承継ができない中小企業を対象に投資を行う投資会社です。

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お問い合わせはこちらから https://nycinc.jp/contact/

※記載内容は2024年2月時点のものです


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