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(続)ショッピングモールのテナントとデベロッパーの関係…契約の種類

前の記事では、ショッピングモールにおけるテナントとデベロッパーの関係は、賃貸借関係なのだ、ということを書きました。
しかし単に賃貸借といってもいろいろな形態があります。
ショッピングモールで典型的に使われる「定期建物賃貸借契約」を中心に、契約の内容について整理してみようと思います。

1.(おさらい)ショッピングモールにおけるテナントとデベロッパーの関係

ショッピングモールに入っているテナントは、デベロッパーから建物の一部を借りて、自ら内装や商品、運営スタッフなどなどを用意して運営しています。
ですので、テナントとデベロッパーとの関係は「建物賃貸借契約」です。

2.建物賃貸借…(所謂)普通借家

建物賃貸借契約の種類は、法律では「借地借家法」で定義されています。建物賃貸借には大きく2種類あり、「普通借家」とも呼ばれる一般的な建物賃貸借と、様々な特別な条件のもとで成り立つ「定期借家」というものがあります。(「ていきしゃっか」や「ていきしゃくや」と読みます。正しくはどちらなのでしょうね。借地借家法も「しゃくや」だったり「しゃっか」だったりするのでどちらでも良いのかも。)

日本における借家契約は、借主保護の発想に基づいて作られていて、この普通借家の設計における基本的な考え方も「お金のない借家人が、家を持っている金持ちの大家さんから家を借りるとき、イジメられないように保護する」というものです。

この考え方に基づき、普通借家では以下のような借主保護が法律で定められています。
・借主は、契約期間が終わっても希望するならそのまま家が借りられる。
=貸主から契約期間の終了であったり、契約期中での解約であったりを求める場合は、正当事由と言われる一定の理由があり、それに加えて立退料を支払わないといけない(理由と立退料があっても認められるとは限らない)
・それに反するような定めは無効(法律上無効なので、当事者同士で定めておいたとしても裁判所で争ったら当然無効になる)

このような借主保護があると、やりようによってはショッピングモールのテナントはショッピングモール全体の利益を無視して、自分だけ良い区画に居座る…ということが可能だったと思います。
しかしこのような状況でも、かつてのショッピングモールにおいては、貸主と借主の信頼関係においてリニューアルの際の区画移動や撤退が行われていたと聞いています。

そしてさらに、現在のショッピングモールにおいては定期借家という契約類型ができることで、より事業者同士の公平性が取られるようになりました。その定期借家について、次に記載します。

3.建物賃貸借…定期建物賃貸借契約

ショッピングモールにおいて現在一般的に使われているのは後者の「定期借家」という契約類型です。(法律用語では「定期建物賃貸借」)

この定期借家とは、建物の賃貸借において一定の条件を満たした場合、普通借家と比べて借家人保護が緩和されるものです。定期借家は2000年の法改正で定められたものです。

まず、借地借家法の条文を引用します。

<借地借家法より引用>
(定期建物賃貸借)
第三十八条 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。
2 前項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。
3 建物の賃貸人が前項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。
4 第一項の規定による建物の賃貸借において、期間が一年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から六月を経過した後は、この限りでない。
5 第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。
6 前二項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。
7 第三十二条の規定は、第一項の規定による建物の賃貸借において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しない。

なぜ定期借家がショッピングモールにおいて多用されている(というかむしろ、99%はこの契約を使用している)のかというのは、契約の更新(実質的な延長)をしないような定めにできる、ということに尽きます。

前述の通り、普通借家でテナントを導入しても、ショッピングモールのデベロッパーは信頼関係に基づいてリニューアルの際に区画移動や撤退をテナントと協議し、実現することができていました。しかし、それはあくまで信頼関係に基づく、ウェットな関係ありきの契約関係であって、ビジネスライクな、ドライな関係において保証されるものではありませんでした。

外資系のテナントも増え、また企業同士の関係もビジネスライク、になることを求められてしまうと、この定期借家を使わない理由はデベロッパー側にはありません。

普通借家契約のテナントとは、定期借家への切り替えを継続出店の条件にし、場合によっては営業保証金(※1)を敷金にすることでテナント側のキャッシュフローの改善も条件にしながら、今では普通借家のテナントというのは本当に珍しいものと言われるほどになっています。

4.土地賃貸借…定期借地と(所謂)普通借地

一部のショッピングモールのテナントは、デベロッパーから土地を借りて自ら建物を建てる形式で出店しています。

例えば既に営業しているショッピングモールにスポーツジムを導入しようとしたとき、最近よくある簡易的なジム(機械がおいてあり、受付がある程度のもの)であればともかく、プール付きでシャワールームも備えているような規模のジムは、現実的に導入が難しいです。それはインフラの導入の難しさもありますし、それだけの面積を建物内で新たに確保する難しさもあります。

また小規模なショッピングモールでは、そもそも土地賃貸借でテナントが建物を建てる前提で計画がなされている場合もあると聞きます。ロードサイドの、いくつか小さい建物が集まった形のショッピングモールにそういった形態があるそうです。

これらの場合は土地賃貸借契約でデベロッパーからテナントに土地を貸すのですが、この場合でも普通借家・定期借家と同じく、普通借地・定期借地という契約の差があり、多くは定期借地を用いているものと考えられます。

すこし特殊な事例が多くなってしまうので、そういった形態があるのだというご紹介にとどめておきます。(気が向いたらもう少し詳述します。)

5.その他のテナントのような契約

建物賃貸借ではなく、場所貸しである、といった立て付けでテナントを導入している場合もままあります。数日だけの催事(よくあるのがウォーターサーバーの勧誘ですね)であったり、空き区画に1ヶ月だけ出ているようなものは、それ専用の契約が用意されていることが多いようです。建物賃貸借としてしまうと、前述のような普通借家と扱われた場合のリスクが高いから…ということかと思います。

しかし普通借家と扱われるかどうかというのは、契約書にそう書いてあるから、といった単純な理由ではなく、様々な事情(あらかじめ契約の目的がどうだったか、その目的を貸主・借主が認識していたのか、借りている場所に何を置いていたか、等)によって総合的な判断がなされるものなので、デベロッパーの立場からすると、なかなか扱いにくい契約だったりもします。

6.注釈

(※1)普通借家しかなかった時代、デベロッパーはテナントに対し、多額の営業保証金の預け入れを要求していました。これは、普通借家による立退リスクの代わりということでもあったでしょうし、普通借家の借主という強い地位を手に入れることの代償としての見せ金という側面もあったのではないかと考えます。結果的に、多額の営業保証金を預け入れる必要がなくなったことから、資金力の低いテナントの出店も可能になったという点で、定期借家による優良不動産の流動性促進という目的は果たされているのではないかと考えています。

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