【短い物語】 幸せとは何か

 幸せとは何か、
 それは、常に良い選択をした結果、得られるものだろう。

 かならず行動には選択肢が存在する。
 そんな選択肢の中で、何らかの基準をもち、結果良い選択をした時に、その都度、快感が得られる。

 そして、そんな快感の蓄積総量が、幸せというわけだ。

 だから、
 都度生まれる選択肢から最良の選択をし続けようと思考することが、幸せへの道ということなのだ。


「おはよう」
 目が覚めると、彼女が私に声をかけた。

「おはよう」
 私は同じ言葉を彼女に返した。

 彼女はそんな私の言葉にあまり反応を見せず、朝の支度を続けていた。

 おや?
 あまり彼女を喜ばすことができなかったか?

 もしかしたら彼女は、私にもっと違う反応を期待していたのかもしれない。

 彼女をもっと喜ばす反応があるのであれば、私はその選択をしたい。
 最良の選択を求めて模索したい。

 選択をやり直して、より良い選択を探すのだ。

 よし、もう一度やってみよう。


「おはよう」
 彼女は私に声をかけた。

「おはよう、今日もいい天気だね」
 私は少し反応に工夫を加えてみた。

 すると彼女は、
「そうね」
 と、少し笑みをこぼした。が、そのまま支度作業に戻って行った。

 少し良くはなった。
 ただ、もっと喜んでもらえる反応があるはずだ。

 もう一度やってみよう。


「おはよう」
 彼女は私に声をかけた。

「おはよう、今日もいい天気だね。コーヒーを淹れようか?」
 私はさらに言葉を足し、提案を加えてみた。

 しかし彼女は、
「コーヒーはさっき飲んだわ。それにもうそんな時間ないの」
 そう言って、むすっとしながら支度を続けた。

 これは悪手だった。
 そもそも彼女は忙しい。反応を求めているわけじゃなかったようだ。

 今度こそ。もう一度やってみよう。


「おはよう」
 彼女は私に声をかけた。

 それに対し私は、彼女の邪魔をしないよう、大きな反応はせずに、笑顔で見守ってみた。

 すると彼女は、
「どうしたの?無反応なんて気持ち悪いわ」
 と怪訝な顔で笑顔の私に反応した。

 どうしろというのだ。
 反応するという「選択」をとっても、反応しないという「選択」をとっても、最良の結果が得られないなんて。

 いや、何か良い「選択」があるはずだ。
 どれだ?どれが最良だ?

 考えろ。
 考え続けて答えを見つけるのだ。

 
 最良の選択を、


 正解を探すのだ。

 

 しばらく固まっていると、外部から音声だけ聞こえてきた。

「あなた。あなた、どうしたの?目を覚まして!」

 彼女の声だ。

「やはり、この状態になってしまったか」

 これは誰の声だ?見知らぬ男の声だ。

「この状態って?」

 これは彼女の声だ。

「「プット・ループ・トゥーセルフ」という状態で、つまりは処理循環から抜け出せなくなってしまうことだよ」

 また見知らぬ男の声だ。

「どうしたらいいの?」

 彼女が声を発した。

「やはり「人間プログラム」をインストールするしかないか」
 

 一瞬、目の前が真っ黒になったと思ったら、急に頭がすっきりしたような気がして目が覚めた。

 目の前には彼女がいた。

「あなた、おはよう。私がわかる?」
 彼女は私に声をかけた。

「ああ、そんな悲しそうな顔をしてどうしたんだ?」

 そう私が反応すると彼女は、

「どうしたじゃないわよ。心配したんだから」

 そう言いながら、どさっと椅子に腰をかけた。

 どうやら不機嫌にさせてしまったか?
 まあ、考えてもしょうがないか。

「すまんすまん」

 そう素直に彼女に謝ると、

「よかった。「戻った」みたいね」

 と、深く椅子に座りながら、少し目に涙を溜めながら微笑んだ。
 何が起きたかよくわからないが、とにかく彼女がよかったと言っているんだからよかったのだろう。

 私は横になっていた身体を起こすと、そのまま立ち上がり、窓の方へ歩いて行き、窓の外を見ながら深呼吸をした。
 兎にも角にも、なぜか頭がからっぽになったみたいに、すっきりしていた。

 幸せとは何か、
 それは「選択しないこと」なのかもしれない。

 世界をそのまま見て、起きたことを受け止めて、
 どんな自分であっても認めること、自然を認めること、

 たぶんそれが、「人間の幸せ」なのだろう。

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