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渡り蟹は、庶民派

魚屋さんの店頭に、又渡り蟹が並びます。包装?の中で、足がぴくぴく動いたりしていると、「新鮮だわ(生きていますからね)、さぞや美味しいのだろうなあ」と心が動きます。

高級品ぞろいのカニ一族の中でも、渡り蟹はちょっと低めのお値段ですから、家族の夕飯のおかずにもできます。味噌汁とか、鍋もいいですね。前にも書きましたが、タイ料理のプーパッポンカレーもたまらなく美味しいです。

実は渡り蟹は,昔から庶民の食べ物とされ、江戸時代にはお客様にお出しするのは失礼とされていたそうです。これは、鍋などにしても、食べにくいから、ということもあるのでしょうか。懐石料理の作法では、お客様が食べやすく料理することになっていますから、殻から身を出して食べるような渡り蟹は、敬遠されたのでしょう。

また、戦前、戦後において品川から大森にいたる東京湾沿いに渡り蟹を食べさせてくれる料理屋が沢山あったのだそうです。これは、お客様に出すのは憚られるけれど、家族や仲間で食べるのには、人気だったということでしょうね。お値段もお手軽価格だったのだと思います。そういえば、亡くなった大叔母は(漁村出身でした)、「子供の頃は貧乏で、米が買えない時は、エビやカニを食べていた」といっていました。たぶん、売り物にならないような半端な数のものや、形がそろわないものは自家消費だったのでしょう。

北海道や北陸で水揚げされる、タラバガニやズワイガニが食卓を賑わすようになったのは最近のことなのだそうです。輸送手段や、日数、保存技術が発達しなければ、関東まで届くのは難しかったのですね。

渡り蟹の一族は、アメリカでもブルークラブなどが有名です。アメリカでは、脱皮直後のかにを殻ごと食べてしまうソフトシェルクラブが人気で、カニの漁獲高の半分は、ソフトシェルクラブなのだそうです。これは、もしかしたら、カニの身をほぐすのが面倒だからかしら?

朝鮮半島では、カニのチゲ(鍋)にしたり、キムチと和えたりして食べていますし、タイでもプーパッポンカレーにしたり、揚げたり、蒸し足りと色々料理しています。あちこちで収獲されるカニなのですね。

私が子供の頃、渡り蟹が食卓に上ることはありませんでした。一般人も買い物ができると評判が良かった塩竃魚市場でも、見かけた記憶がありません。東京のイタリアンレストランで、渡り蟹のパスタをみかけて、「何処で採れたカニかしら?」などと思っていました。

ですが、最近魚屋の店頭には、「宮城県産」の表示のある渡り蟹が多いのです。不思議だと思って調べたら、昔の宮城県の渡り蟹の水揚げ高は10トン、それが2011年の東日本大震災の影響で、大量の土砂が海に流れ込み、渡り蟹の生息に適した環境になったので、2012年から500トンの水揚げ高になったのだそうです。以外な副産物を生んでいたのですね。

日本全体の渡り蟹の漁獲高は年々減少している中で、ちょっと明るい話題です。渡り蟹の缶詰めも出回っています。ズワイガニの缶詰に比べれば、手を出しやすいお値段です。

とは言え、カニの美味しさを私達の子孫にも味わってもらうために、カニの生存しやすい環境整備や、乱獲を防ぐというのは大事なことだと思います。一つの食材が、伝統食や、歴史を伝えるものでもあるのを忘れてはいけまsん。民族の知恵が詰まったものが、伝統食なのですから。

カニの缶詰が高価なのは、殻から身を取り出す作業が、人力だからだそうです。カニのひとつづつの個体差もありますし、足から身を取るのと、頭の部分から身をとるのは、又別の作業です。カニの缶工場の人達が、黙々と身をほぐしている姿を想像すると、自然と頭が下がります。食べ物を大切に食べたいものです。

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