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トップガン マーベリック

前作「トップガン」が日本であれほどに一世を風靡したのは
映像の革新にあったのではないかと思う。
アメリカ海軍協力の元、現用戦闘機を実際に飛ばして撮影したという
80年代としては、それまでにない圧倒的迫力の戦闘シーン、
戦闘機ドッグファイトシーンが、人々の心を熱狂させたのではないか。
バブル景気のおおらかな時代背景と相まって。
評論家の評価はそれほど高くなかったようだが、
余計な理屈をこねくり回す事をあざ笑うかのように、
サントラは飛ぶように売れ、アイスマンカットの若者は町に溢れた。
ストーリーはスポ根青春ものに恋愛と友情を、特に何のひねりもなく盛り込んだ、当時としてはベタベタ凡庸定型の話ではあったが、
どんな横やりもさらりと吹き飛ばしてしまう、気持ちのいい風のような力のある作品だった。
今作「トップガン マーベリック」もあの時代の、
そんな気持ちのいい風のような雰囲気が冒頭からまざまざと蘇ってくる。
それは奇跡のような体験だ。あれから36年。時代は大きく変わった。
何かと重苦しい状況が世間を包み、人の心は疲弊し、映画や小説の世界でも人の生き辛さ、善悪や道徳の曖昧さを浮き彫りにして、そこから小さな光を掴もうとするような話がウケている。
そういう話も嫌いじゃないが・・・。
そんな時代の変化がそこだけ止まっているような・・
いや、時代は変わっているのに、変わらないマーベリックがいた。
いまこのタイミングでトムクルーズが「トップガン」続編をもってきた事は何か意図的なものである気がしてならない。
アメリカ海軍協力の元、現用戦闘機を実際に飛ばして撮影というところは変わらず
もちろん技術的には圧倒的に進化して、いっそう迫力を増したの戦闘機シーンは圧巻だ。
ストーリー面でも前作はマーベリックの粋がった、生意気な若者ぶりがいささか鼻についたところもあったが、今回は36年経って、マーベリックにも大人の哀愁が加わって、我々、前作タイムリー世代としては、いっそう心に響くだろう。
ただ、これを若者が観た時にどう思うか・・
おおよその評価は高いようだが
「おいおい60のおっさんが現役のトップパイロットより凄いって、ファンタジーかよ」
ぐらいのツッコミ気概は持ってほしいとも思う。
逆に・・。
昨今の映画界、シン、○○シリーズしかり、80年90年代名作続編シリーズしかり
われらアラフィフ、アラシー世代にはありがたいが、
いつまでも過去の栄光にしがみついて世代交代を妨げているのもいかがなものかとも思う。
また、この時代にアメリカ正義の味方、大団円ものに熱狂するのもどうかとも思うが。
そんな事も超越して、ただ心地よい風に浸るの悪くないではないか。
「考えないで心のままに動け」
作中、様々な人間が口にするこの言葉。
恐らく本作のテーマでもあるそれは、ものの真理の1つでもある気がする。

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