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哲学×投資~幸せになるお金の法則~その1「お金とは?」

皆さん、こんにちは。NVIC note編集チームです。
前回投稿で予告したとおり、2月に哲学者の小川仁志さんをお招きして実施したイベント「幸せになるお金の法則」の模様をお届けします。

お金とは?
投資とは?
幸せな生き方とは?

偶然の縁から実現した哲学×投資という異色のコラボにより、その本質に迫ります。

長期投資家、哲学者と出会う

司会:それでは時間になりましたので始めさせて頂きます。本日は新型コロナウィルスで世間がザワついているときにわざわざいらして頂いてありがとうございます。わたくし、日経WOMANの編集長をやっております藤川と申します。

実は今日のイベントはかなり偶然で決まったところがあります。日経WOMANの編集部でちょうど「濃い読者さん」を集めたお金のセミナーでご意見も伺うようなイベントをやりたいという話をしていたんですね。
そんな時に今日いらっしゃいます農林中金バリューインベストメンツの奥野さんから、「働く女性など、色んな人達にお金のことを伝えたい、日経WOMANとコラボで何かできないだろうか?」というお話がありまして、小川先生とのご関係についてもまた後でお話があると思うんですが、哲学者でいらっしゃる小川先生と奥野さんのコラボレーションで話をしたら面白いんじゃないかと。

それから急にピンポイントで「この日にやれそうだ!」みたいな話から日程が最初に決まってしまい、我々もそれに乗っからせて頂いた、そんなイベントです。皆さんの質問を受けるような場面もたくさんあると思いますので、普段疑問に思ってること等、たくさん手を挙げてご質問頂ければと思います。

日経WOMANでは、「女性が一生自分の足で立っていける」というコンセプトを読者さんと是非共有したいと常日頃から考えています。結婚してもしなくても、お子さんがいてもいなくても、将来経済的に何があるか誰も分からないですよね。「経済的に誰かに頼る」という生き方はリスクが大きすぎますし、ちゃんと自分が必要なお金を貯めて、運用して、稼ぐ力やスキルを身に付けることはものすごく大事であると考えています。そういう意味では今日のお話はたくさんのヒントが詰まっていると思いますので、皆さん是非お楽しみいただければと思います。それでは奥野さん、小川さん、宜しくお願い致します!

小川:皆さん、こんばんは。小川仁志です。今日は座談会ということで「厳選されたメンバー」の20名ほどに集まって頂いたんじゃないかなと思っているんですけれども。
そうですよね、藤川編集長?決してこれだけの方しか応募がなかったわけじゃないと(笑)。ということで、選ばれたメンバーにお集まり頂いたということで濃い話をしていければと思います。

私についてご存知ない方もいらっしゃるかもしれませんが、山口大学という所で教鞭を取っております。加えて哲学者と名乗っていまして、本もたくさん出版したり、あるいは哲学カフェという市民との哲学対話をやったり、また最近ではNHKのEテレで「世界の哲学者に人生相談」という番組をやらせて頂いたり、とにかく哲学を使ってそれを世の中に広めるという活動をずっとやっています。

なんでそんなことをやっているのかというと、哲学にかつて私も救われたという経験があります。どうも日本では哲学っていうのは「死んだ知識」のように扱われていて役に立つとは思われていません。それは非常にもったいないなあと思っておりまして、色んな分野に適用することで世の中を良くしていこうという活動をしております。

今日もその一環ということで参加をさせて頂きました。哲学とお金がコラボしたらきっと世の中がもっと良くなるんじゃないかということで、奥野さんや今日ここに集まって頂いている皆さんのご意見も聞きながら、私自身がお金に関する、あるいは投資に関する物事の本質みたいなものを深めていきたいと思います。一緒に楽しんで頂けれたらと思います。宜しくお願いします。

奥野:皆さん、こんばんは。農林中金バリューインベストメンツの奥野です。新型コロナで大変な時にこのような機会を作って頂きまして、藤川さん本当にありがとうございます。

先ほど仰った「一生自分の足で立つ」という言葉ってすごく大事だなあと思っています。今日もその話題になると思いますが、それは実は金銭的な話だけではないと私は思っているんですね。金銭的な話というのはもちろん重要ではあるんですが、それよりももっと精神的な自立をどのように確保できるのか?ということを最近ずっと考えています。

というのも、私は30年間ずっと金融のマーケットにいまして、ファンドマネージャーという仕事をやっています。先週もアメリカの西海岸に行って、例えばディズニーや、皆さんの知っている所で言うとコストコとか、そういった企業を実際に訪問をしながら見つけた「本当にいい会社しか買わない」という投資をしています。

みんな「投資」というと、「株券を売ったり買ったりすること」だと思っていらっしゃる方が圧倒的に多くて、「あぶく銭を稼いでるんちゃうの?」という風に思う方が結構多いのです。そんな話も後でさせて頂きますが、全くそうじゃないです。

「投資ってそもそもなんぞや?」という話を突き詰めていくと、特に個人の方々と話していて感じることが多いのですが、どうしてもライフスタイル、生き方といった話になってくるんです。先程も申し上げた「精神的な自立」がすごく重要なんだと感じます。そういうことを悶々と考えている時に、どうやら山口にものすごく面白い哲学者がいらっしゃるという情報をキャッチしまして(笑)。1月の半ばくらいにパッと山口に行って、お話をして、もう今日の日程をその場で決めてしまいました。

小川:3秒くらいで決まりましたよね(笑)。

奥野:これ本当に冗談じゃなくて、まさにこの人だ!と(笑)。小川さんと一緒に哲学と投資のコラボレーションでそれぞれ交わり合う部分を皆様にお伝えできればいいなあと思い、今日企画させて頂きました。それに乗っかって頂いた日経WOMANさん、本当にありがとうございます。今日は短い時間ですが、どんなものが生まれるのか、非常に楽しみにしています。どうぞ宜しくお願いします。

小川:奥野さんは触れられませんでしたけど、「3秒で決まった」というのは実はもうちょっと背景がありまして、奥野さんは私の高校、洛南高校の1個上の先輩で、かつ京都大学法学部の1個上の先輩ということで色々共通点があるんですね。

奥野:当時は全然知りませんでしたけどね(笑)。

小川:そうなんです。でも知ってたら僕も立場が後輩なんで、今思うと知らなくて良かったなと思いますけど(笑)。でも共通の知り合いもいたりして、割と本当にすぐ3秒くらいで打ち解けて、こういうことをやらせて頂くことになりました。じゃあ早速行きましょう。

今日は、「お金とは?」っていう質問と、それから「投資は何か?」という質問と、あと最後に「幸福とは何か?」という質問を大きく3つのテーマに分けて、基本的には私達二人が話をしていきたいなと思っています。
まずは最初、「お金とは?」というテーマからいきたいと思います。事前に皆様からもご質問頂いていますので、それを最初に紹介して、それを切り口にお話をしていきたいと思います。こういう質問が来ています。

「お金を貯めること、節約や投資は苦でなく毎日楽しんで行っています。一方でお金を貯めてそのお金をどうしたいのか、自分はどう生きていきたいのかについてはっきりした目的がありません。今後私は結婚せず、一人で生きていく可能性が高いため、漠然とした老後と親の介護の不安があり、ひたすら貯蓄と投資をしています。お金を使うことをきっかけに自分の将来に夢や希望を見いだし、人生を実りあるものに切り替える方法はありますか?」 

あるいは、「生きたお金の使い方とはどういうことですか?」 という感じの質問があったり、あるいは、「適切にお金を使っていくことができるようになるはどうしたらいいでしょうか?」、というような質問も頂いていますね。

お金とは何か?

小川:まず、ちょっと最初に皆さんにお尋ねしたいんですが、そもそもお金というのは皆さんにとって目的なのか手段なのか?ちょっと全員に聞いてみたいと思います。直観的で結構ですので、お金を貯めることは目的なのか、それとも手段なのか?というのを考えてみてください。宜しいですかね?

どちらかというと自分にとっては「お金は目的です」という方、挙手をお願いします、何名かいらっしゃいますね。「手段です」という方、ちょっと手を挙げて下さい。なるほど、こっちの方が少し多いですね。

それでは一人だけ指名して聞いてみてもいいですか?お金が目的だと言う方、これは分かりやすいですよね。「お金が貯まって嬉しい」、「たくさん貯めたい」、ということだと思います。「手段」という方は「何のための手段なのか」というのをどなたかもし宜しければ教えて頂きたいんですが、どうでしょうか?

参加者:私の場合は、自分は幸せだなって感じられるために、いわば精神的な安定のための手段ですかね。

小川:なるほど。自分が幸せに感じるための手段、いきなりいい答え出ましたね!

奥野:もう終わりですね。飲みに行きましょうか(笑)

小川:まずは、企画的に「別荘を買うため」とか言ってもらいたかったんですが(笑)。「何か物を買うため」という方はいらっしゃいます?具体的な物がある方っていうのは、例えば海外にこんな別荘を持ちたいからだとか。いらっしゃらないですかね。分かりました。

時間がないのでどんどんテンポよくいってしまわざるを得ないのですが、私の方からまず哲学の話をしたいと思います。ジンメルっていうドイツの哲学者、彼は社会学者でもあるんですけど、貨幣に関することを書いています。

「貨幣は何といっても最終的な価値の橋渡しに過ぎず、所詮人間は橋の上に住み着くことはできない」

これだけ見ても分かるんですけど、要はお金っていうのは心と価値を繋ぐ橋だっていう表現をしているんです。私はこれ非常に好きな表現で、一番好きなのは、この「橋の上に住み着くことはできない」という所を見て、なるほど、確かに!と思ったんですよね。

大事なことは、やはり「自分と何の価値をお金によって繋ぐかのか?」ということになってくると思うんですね。いくら良い橋を作ってもそれをどういう風に利用するか、つまり、「その橋でどこに行くか?」というのがないと意味がないのではないかということなんです。

他にもお金というのは色んな例え方ができるわけですけど、「精神を入れる器だ」なんて言い方もあったりもしますし、やはり、「手段」ということで哲学者は捉えている部分が多いかなという印象です。というのも、歴史上の哲学者達は、哲学なんかをやっている人達ですから、そもそも物欲もないですしね。

奥野:本当ですか?(笑)

小川:私もないんですよ、実は。見かけは金ピカ先生みたいですけど、ないんです(笑)。よく山口に来ていただいた方が驚かれるんですけど、車も中古のボロボロの、これ大丈夫か?みたいな、ルパン3世みたいな車に乗っています。

奥野:服装もルパンみたいですよね(笑)

小川:例えばサルトルっていうフランスの哲学者、私大好きなんですよ。あの人の場合は自分がその日暮らしで生きていければいいから、本の印税とか入ったら人にあげちゃうんですよ。そんな人なんです。私はまだその域までは達していないですけど、哲学者ってそういう人が多いと思います。

そんな人達でもやっぱりお金はいるんですよ。ここの部分がお金の面白い所かなという風に思うのですがいかがでしょうか?ちょっと奥野さんとこれからクロストークしていく上でこれは一つの切り口ではあるのですが、お金のプロに、「お金とは何か?どういう風に考えられているのか?」を聞いてみようと思います。

奥野:「お金とは何か?」って小川先生が仰いましたけど、たぶん多くの方がお金ってどこか汚いものだと思っているんですよね。お金を稼ぐこととか、お金について話をするっていうことについて、何となく後ろめたいとか、そういう風な発想を持っている人は多いと思います。

大人になる過程で「お金って一体何か?」ってきちんと教えられなかったんだと思うんですよね。ここで僕が本当に思うのは、お金って「何かの価値を提供した結果」なんですよね。「お金を稼ぐ」ことはもちろんそういうことだし、逆に「お金を払う」というのも何らかの「価値」に対する「ありがとう」っていう感謝の言葉なんだろうなっていう風に思うんです。

そういう意味で言うとお金って全然汚くありません。ウォーレン・バフェットっていう、投資の世界では超有名な人がいらっしゃるんですけど、90歳ぐらいのおじいちゃんで、世界第3位か4位かの大金持ちです。皆さん、株式投資って株券を売買することだと思っているでしょう?後で述べる僕たちの投資のやり方にも通じるのですが、彼は「売らなくていい会社しか買わない。本当にいい会社なら売る必要はない」っていう考え方です。だから彼はコカ・コーラの株を何十年も持っていて一株たりとも売買なんかしてないです。ずっと持っているだけで上がり続けて、今では世界有数の大金持ちなっています。

そのウォーレン・バフェットが言っているのが、「価格はあなたが払うもの、価値とはあなたが受け取るもの」。この感覚がすごく大事なんですよ。人間って、お店で何か売っていてその値段が150円だと、150円の価値だと思ってしまいます。違うんです。「価値」っていうのは皆さんが決めるものなんです。「これは本当に150円の価値があるのか?」というのは、皆さん一人ひとりの価値観に基づくものなんです。

例えば、デートとか家族でディズニーランド行って一人7,500円、食事代なども含めると一人1万数千円払いますよね?その時、本当にあんな絶叫マシーンに乗ることがその価格として合っているの?そんなもことは誰も分からないです。でも実際の所、その見えない「価値」にお金を払っているのです。どんな「価値」かというと、「恋人と大事な時間を共有する」、「子どもと一緒に絆を深める」、それが「価値」です。

iPhone一つ取ってみたって、これを電話とメールをする機械と考えたら、10万円近く払うのなんて馬鹿げているように思えます。でも、このデザインがクールだとか、それこそiPhoneを持っている意味的な「価値」ですよね。その価値というのは皆さんそれぞれが決めることであって、それが価格とのバランスが良ければ当然払うし、そうでなければ払わない、ということだと思っています。

小川:今、「ありがとうっていうのがお金なんだ」、というのはすごく面白い比喩だなあと思いました。確かにそう考えれば汚いも何もなくて、例えばコーラ1本に対しては1ありがとうだとか、ディズニーランド行った時は、もうちょっと高いかな、100ありがとうだ、みたいに「ありがとうを出しているのがお金だ」ということであれば非常に美しいじゃないですか?

にも関わらず、何故それが「お金って汚い、あまり口に出すもんじゃない」みたいな風潮があるんですかね?例えば僕は哲学に関する本をいっぱい出版していますけど、「この本の印税いくらですか?」という話は基本的にしないですよね。そんな話をしたら、せっかく文化的なことをやっているのに、何か下世話な感じがするとか、そういうイメージがあるんでしょうね。お金の話は絶対にしない。だから本ができあがって、印税が振り込まれてはじめて、「この仕事いくらだったんだ」と思うわけです。いつしか私もそれに慣れてしまっていて、「私はもう生きがいでやっていますから!」と、どうしても言わざるを得なくなってしまっています。これは何故なんですかね?

奥野:何故かは分からないですけど、そういう風に刷り込まれてしまっている、というだけだと私は思っています。「稼ぐこと」というのは「誰かに価値を提供している」ということなんですよね。会場の皆さんも普段お仕事をされているわけですよね。すなわち、必ず向こう側にお客様がいるわけです。もし営業のお仕事なら当然お客様がいますが、例えば経理の仕事なら、経費を精算してもらったり数値の報告を受けたりする社内の人達がお客様になるわけです。この人達に対して「価値」を提供したら正当な対価を受け取るっていうのが基本ですよね。

そういう意味で言うと、なにもお金をもらうことを卑下する必要は全くないですよね。お金を貰いすぎているとかどうのとか、もし自分の能力が足りていないのにたくさん貰いすぎていると思えば、卑下する必要もあるかもしれませんが、自分が提供した「価値」に対してちゃんとお金が返ってくるのであれば、こんなに素晴らしいことはないわけですよ。

後で投資の話もしますが、企業のレベルでも同じことが言えます。企業が「利益」を上げるっていうのは、お客の問題を解決した対価であるという風に考えれば、その会社が利益を出し続けるということはお客の問題を解決、ひいては社会の問題を解決しているということなんです。逆に「利益が出ない」というのは、何も「価値」を生み出していないということ、投資家の立場からはっきり言わせてもらうと、悪なんですよ。

小川:問題解決をしてあげて、それに対して対価を頂く、ということであれば、何にも汚いことなんてないのですが、やっぱりその、「ありがとう」っていうのと、それをお金というものに換算する時には何か違いがでてきてしまうということだと思います。だから、その対価というものを、1ありがとうとか10ありがとう、と考えればそんなに汚いと思わないけど、それをお金に変換してしまうことによって、汚いとか下世話に感じてしまうところが問題だと思います。恐らく「価値を評価する」ことへの何か誤解とか躊躇みたいなものが正直あるのかなぁって今聞いていて思いました。

結局、お金に換算しないと、それが「1ありがとう」なのか「10ありがとう」なのか、やっぱり分からないんですよね。本当にどれだけ自分が感謝されているのかは人によってニュアンスも違いますし、だから共通の物差しを作りましょう、ということになって「お金」という仕組みができたんだと思います。明確に「あなたのやってくれたことはこのくらいの金額だ」というのを評価しないといけない。お金自体が汚いと思うよりも、「他の人にしてもらったことを評価する」ということに対するためらいとかそういう部分が少なくともあるのかなあと、今聞いていて思いましたね。

奥野:そうかもしれないですね。

小川:特に日本人の場合そうじゃないですか。曖昧にしておきたい民族なので、「あなたのやったのはこれぐらいの業績で、こういう評価だからこの金額です」って出すのはすごく苦手なんだと思います。

今どんどん欧米流の評価システムが入ってきているから、実は大学も困っているんですよ。私なんかここだけの話B評価ですよ。「俺Bなの!?」って。大学受験の時の判定でも貰ったことないですよ。人間ドッグではEとかありますけどね。でもBでも良い方なんですよ。理系の先生でよっぽど目に見える成果を出さないとA評価なんか出ない。いずれにしてもそういう評価のやり方で大学もみんな困っているんです。日本人ってそういうところがある。

奥野:だからそこが今回のテーマにもつながっていくと思うんですけど、「精神的に自立しましょう」っていうことなんですよ。結局それはタイムラグがあるだけだってイメージできればいいんですよ。たまたま今の評価が低かったとしても、なにくそということで自分に投資をしながら自分が出せる「価値」を高めていって、最終的に勝てばいいわけですよ。

人の目、評価が気になるっていうのは、結局何らかの意味で自立できていないっていうことになるのかなって思いますね。精神的な自立からの自由っていうのが確保できなければ、お金なんていくらあったってビクビクするだけだと思うんですよね。

小川:自立っていうのは、私は「自信」というのにも似ているなと思ったんですが、自分でやっていることに対する自信とか、自分が物事を評価する時の自信があれば、確かにあまりお金の数字に、「いやこれ多いかな少ないかな」なんてビクビクしなくても済むような気もしますね。

最後にもう1つ聞いてみたいと思います。共通の物差しとしてお金が出てきたという話がありました。価値を決める時に、国が違ったりとか、あるいはバックグラウンドが違ったりしたら、やっぱり人って価値観が違うから、どれぐらいの感謝が妥当なのか、このサービスがいくらぐらいかってやっぱり分からないじゃないですか。そこにお金っていう共通の指標ができるっていうのは素晴らしいことですよね。そう考えると、お金っていうのは共通の物差しなんだから、汚いも何もなくて、私達が色んなものを交換し合う世の中では必要不可欠のツールだって、これは分かりました。

古代ギリシャで元々貨幣を意味する言葉は「ノミス」と言います。で、法律は「ノモス」って言うんですけど、もともと同じ語源だったらしいんですよね。要は「共通の物差し」です。確かに法律もルールが共通じゃないと社会がうまくいかないし、経済活動も貨幣みたいな共通のルールがないとうまくいかないですよね。法律と貨幣が一緒ってなかなか面白いと思います。

そこでちょっと最後に確認したいのは、一方でお金では測れないものがあるってよく言うじゃないですか。プライスレスだとか。こういったものをどう考えたらいいのかなと。奥野さんは、人がやっていることとか企業がやっていることとか、そういうものをお金に換算してそれでお仕事されているわけですよね。そんな奥野さんと、「お金で測れないってどういうことなのか」ということを考えてみたいと思ったんですが、どんな風に思われていますか?

奥野:僕が仕事でやっているような経済的な話で言うと、お金には必ず換算できるんだと思っています。ただ、個人的な話でいうと、例えばお母さんの作ってくれたお守りがあったら、それは他の人にとっては二束三文でも、自分にとってはものすごく価値のあるもの。だから「価値」と「価格」っていうのが全然違うんだっていうことをちゃんと分かってさえいれば、僕は別にいくらの値段が付いているかっていうことは、ああそうですかっていう程度に思っておけばいいのかなと思います。だって人がどう思うかとか、人が何をどう評価するかってコントロールできないですよね。そもそもコントロールできないことを思い悩むことって、やっぱり精神的に難しくなるんだろうなと思いますね。

小川:私は今ヒントをもらったような気がしました。お金に換えられないとかプライスレスとかっていうのも、結局ひとつの比喩なんですよね。本当は厳密にというか形式的にやれば、それはいくらでも値段を付けることはできるわけです。人によって価値観は違うかもしれないし、「これがこんな値段!?」って思うことも実際によくありますが、それでもやろうと思えばできるわけですよね。だけどその値段と、いまおっしゃった「価値」はまた別で、お守りの話とか分かりやすいですが、その2つを分けて頭の中で整理しておけばいい話じゃないかなと思いました。

奥野:正にそういうことだと思いますね。「価格は人が決めるもので価値は自分が決めるものだ」と。ここのパラダイムだけ持っておけば、ブレることはあまりないんじゃないかと思いますね。

小川:ここで本当に難しいのは、哲学の世界ってあんまり割り切れるような話ばかりじゃなくて、思い出とかそういった感性とかを重視するところもあって、たぶん人間誰しも、どこかしらそういう部分を持っていると思うんですよね。そこがお金の評価と、特に他の人が下す評価とうまく合わない時に、お金のことを汚いと思ったり嫌いになったりすることもあるのかなって感じはちょっとしますね。

でも、それは先ほど言われたように、世の中のルールとしてやっていることと自分の心の中で思うことはまた別の、いわゆる次元が違うことだから、それを一緒にしてお金のことを恨んだり嫌いになる必要はないのかなあというのは、今のお話を聞いていて思いました。ありがとうございます。

ここまで最初のテーマであるお金について考えてきました。次の「投資」が今日メインのテーマなんですが、投資を考える上で「お金って何だろう」っていうのは皆さんとも共有しておかないと、いきなり投資の話しても分からないと思ったのでちょっとお金の話から始めたんですが、いかがでしたでしょうか。次は「投資とは?」ということで、皆さんにも一緒に考えて頂きたいなと思います。

(次回につづく)