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奥野一成、母校に帰る~洛南高校キャリア教育講演会から パート1~

皆さん、こんにちは。NVIC note編集チームです。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

以前、弊社メンバーの母校である私立城北高校で、高校1年生向けに「投資とは何か?」をテーマに奥野が講義を行いました(参考リンク)。

その取り組みを知った奥野の母校、京都にある私立洛南高等学校の北川校長先生(奥野の高校時代の恩師)から「是非、うちでも講演してほしい」とのご依頼を頂戴しました。

今回は、京都大学の百周年時計台記念館にて、洛南高校の1年生と付属中学の3年生、約400名を対象に行われたキャリア教育講演会の一環として、「総合格闘技としての長期投資とキャリア」と題して、奥野なりのキャリア論をぶつけました。

今回も講演内容の全文書き起こしでお送りします。過去の記事と重複する部分もありますが、自身の後輩たち、35年前の自分自身に向けた奥野の熱いメッセージをご覧ください。


はじめに

皆さんこんにちは。奥野一成と言います。
私は1988年に洛南高校を卒業しました。北川学級でして、中村先生が同級生です。

今日は北川先生が緊急のご用ということでいらっしゃらなくなったので逆にちょっと肩の荷が降りたというか、好きなこと言えるなと。先生がいらっしゃると緊張して喋れないかなと思っていたので、今日はのびのびと話したいなと思います。

今日は皆さんにキャリアのお話をということで北川先生から機会を頂きました。

「総合格闘技としての長期投資とキャリア」と題しまして、長期投資とキャリアについて話したいと思います。

まずは私の仕事であるファンドマネージャーについて。だいたい皆さんファンドマネージャーって何やってるかわからないですし、そもそも長期投資って何?と思っていらっしゃると思うので、その長期投資とは何ぞやということについてお話しします。

それからもう一つがキャリアの話です。皆さんが今15歳とか16歳ですよね。私は88年卒だから49歳なんですよ。そういう意味で言うと、君達は私にとって35年前の自分なわけです。その間に色んなことがありました。色んな苦労もあったんですけど、その35年やる中で感じることを皆さんにお伝えできればなと思います。

これから皆さんには前途洋々な人生があるわけです。その中でのちょっとしたヒントになればなという風に考えています。よろしくお願いします。

長期投資とは何か

私がやっている長期投資っていうのは一体何かというと、利益を出し続けるような本当に強い会社、本当に素晴らしいビジネスを見つけてそれを見極めて、その会社の株式を保有することでその会社のオーナーになる、所有者になることです。

当然のことながらその会社は私の見立て通りだと利益を出し続けるわけでして、利益を出し続けると私も儲かるわけですね。オーナーとして。

私の後ろには個人投資家さんであったりとか、銀行のような大きな金融機関であったりとか、投資家さんがいらっしゃって、だいたいざっくり言うと3000億円お預かりしていて、それをずっと利益を出し続けることができる会社に投資をすることで増やして、その分を投資家さんにお返しするというのがファンドマネージャーという仕事です。

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ではそもそも利益を出し続ける会社なんてあるのかっていう話なんですけど、その話をしないとちょっとキャリアの話にならないので、私自身の仕事の話になってしまいますがちょっと聞いて頂ければと思います。

利益を出し続ける会社。私らはもうかれこれ13年近くこれを考えていますけれども、「構造的に強靭な企業」という風に言っています。それには3つの条件があります。

これから皆さんが最終的にはどこかの会社に勤めたりとか、会社を起業したり、弁護士になったり医者になったり色んなキャリアがあると思うんですけど、自分やお客さんのビジネスを考える時とかの参考にしてもらえればと思います。

まず一つ目の条件。付加価値が高い。価値が高いっていうとちょっとややこしいのでもっと簡単に言うと、それって本当に必要なのか、っていう視点です。必要な物でなければ作ったって儲からないわけです。

例えばNIKEという会社があります。先ほど実は時計台の所で皆さんの足を見てたんですけど、だいたいNIKEかadidasかアシックスかPUMAで、時々ミズノ。というのがスポーツシューズのブランドですよね。

NIKEは例えばテニスであれば大坂なおみさんが今履いていますし、ゴルフであればタイガーウッズが履いていますし、バスケットだったらちょっと古いですがマイケルジョーダンとかがNIKEの靴を履いています。

靴がなかったら体育会の運動部とか成り立ちます?成り立たないですよね。靴なしに運動するわけにはいかないわけです。とりわけスポーツシューズっていうのは、ものすごく機能が重要です。例えばジャンプして着地した時に足痛めないようにしないといけないじゃないですか。だからきちんとしたシューズは絶対に必要です。それが付加価値。

付加価値があるものを作る、とても重要な話です。でもそれを作ったところで、それがすぐに真似できて誰でも作れるんだったら儲からないですよね?誰にも真似できないような形で作れるほど強いかどうか、それが圧倒的な競争優位性でこれが二つ目の条件です。

例えばNIKEっていうのは世界のスポーツシューズのマーケットで3割のシェアを持っています。10人のうち3人がNIKEを履いてます。たぶん統計的に皆さんの靴を見るとそんな感じになってると思います。アメリカに行くとそれが10人のうち4人がNIKEのシューズを履いている。NIKEがいなければスポーツシューズという産業は成り立たないっていうぐらい強いです。

三つ目が長期的な潮流。それって本当に続くの?っていう話です。
付加価値があってどんなにその人が強くても、続かなかったら結局は利益ずっと出続けないじゃないですか。

今世界の人口は77億人います。それが2050年には90数億人に膨れ上がります。同時にスポーツをする人の数っていう伸び率っていうのはもっとその人口の伸びよりも早いスピードで動きます。その時に世界中の10人のうちの3人がNIKEを履くことになるわけですよ。儲かりますよね。

この三つの条件を満たす会社を見つけて、それを吟味して、評価して、その会社のオーナーになる。そうするとその会社が稼ぎ出している利益の一部が私の物になるわけです。すごいことですよね。これが私がやっている長期投資です。

企業の利益=問題解決の対価

それでこの話っていうのは自分が儲けて終わるのかというと実はそんなことはありません。

まずは私が儲かると後ろにいる投資家が儲かる。これはもう当たり前の話としてあるわけです。

でもより重要な秘訣があって、利益って一体何かっていう話です。企業が稼ぐ利益って一体何かと言うと、社会なりお客の問題を解決した見返りです。

前に講演されたの先生のお話でもありましたよね。付加価値ってやっぱりお客の問題を解決したことの対価なんですよ。大きく利益を上げる会社は、大きく問題を解決する会社であり、持続的に利益を出し続けるということは、ずっと持続的に社会の問題を解決し続けるということなんです。

例えば先程のNIKEの話で言うと、最近テレビで駅伝とか見ていると、すごくたくさんの人がピンクのシューズ履いてますよね。あれヴェイパーフライって言います。ピンクの圧底シューズです。あの厚底にはカーボンプレートが入っています。

これを開発するのにマラソンランナーとずっと研究をしながら、彼らにとって最も反発力や推進力が得られて、最も身体に優しい物を作ろうということで出来たのがヴェイパーフライです。それがお客の問題を解決する。NIKEにとってはお客さんというのはそういったアスリートなんですよ。アスリートの問題を解決する、それによってNIKEが儲かる。

ということは一体どういうことなのかと言うと、私は利益を上げ続ける強い会社を選ぶっていうことに自信を持ってやっているわけですけど、それを行うことで私や投資家さんが儲かるのは当然として、結果的に社会もちょっとずつ良くなっていくっていうことなんです。

これが実は投資をするということで、本当に大事な要素なんだと思います。こういう話ってたぶん皆さんはもちろん、お父さんとかお母さんもあまり聞いたことがないと思います。

なので今日帰ってこんな話聞いたよって言うのを是非お父さんとかお母さんに説明しあげてほしいんですね。それはなぜかというと、君達がこれから大人になって、会社に入ったり、それから医者になったりしますよね。

後でキャリアの話をしますけど、医者になったり弁護士になったりする時でも、その仕事がお客の問題を解決しているのか、社会の問題を解決しているのか、どれだけ大きく解決するのかということが、君達がそこから受け取る対価、簡単に言うと報酬に関わっていきます。

単純に医者の免許を持っていたらそのまま生きていけると思ったら大きな間違いです。お客の問題を解決して社会に貢献してナンボやろということを、後でまた出てきますのでちょっと覚えておいてもらいたいと思います。

オーナーとしての投資

この会社のオーナーになるって発想っていうのは結構面白いです。
皆さん知らないかもしれないですけど例えばこの人。日本電産の永守さん。28歳の時に京都の桂の辺りでプレハブ小屋で4人で会社をスタートしています。

何を作っているかというと、モーターです。例えばパソコンに使われているハードディスク、その中にはスピンドルモーターいうものすごく小型で高性能のモーターが入っているんですけど、世界のハードディスクの8割は日本電産のモーターが入ってます。

あと君達のお父さんが乗っている車のパワステなんかでもかなりのシェアを持っています。車ってすぐトヨタとか日産とか思い付くかもしれないですけど、トヨタでさえ世界シェアの10%ですからね。それだけを取ってみても日本電産のすごさが分かると思います。

何を言いたいかというと、日本電産、永守さんが28歳の時起業した会社、今4兆円の時価総額を誇る大きな会社になっています。日本電産の株式を保有する、日本電産のオーナーになるというのは一体どういうことなのかというと、この永守さんという稀有な経営者がみんなの部下になるっていうことなんですね。オーナーになるってそういうことです。社長であっても使用人にすぎないんです。株式を持ってる人が会社のオーナーですから。

それで言うと永守さんは自分もオーナーでもあるんですよ。自分で日本電産の株式を持ってますから。そういう意味でいうと彼もオーナーなんですけど、もし皆さんも株式を持って協働オーナーになれば、経営者としての永守さんが部下になって働いてくれるということです。

例えばウォルト・ディズニー。ディズニーランド行ったことない人なんていないですよね。皆さんくらいの年齢になったら多分一回くらいは連れてってもらっていると思います。そこでミッキーマウスが踊りまくっていますけれども、もしディズニーの株を持ってオーナーになったら、あなた達のためにミッキーマウスが世界中のディズニーランドで踊りまくって、あなた達のために稼いでくれるっていうことなんです。すごいことですよね。

そんな風に考えたことないですよね?
ディズニーランドに行って単純に12000円くらい親が払ってるなーぐらいのイメージだと思います。この話を親御さんに言ってもらいたいんですよ。ディズニーの株を持つっていうのはそういうことなんですよ。

もっと言うと、この人(ディズニーのCEOボブ・アイガー)、1年間に20億円も貰ってるんですよ。20億円っていうのは営業日ベースで250日なので、それを割ると1日800万円。ということは時給に換算すると100万円です。

すごいでしょ。時給100万ですよ。君達がバイトをしても普通に時給1000円です。でもディズニーの株を買うことはできます。1か月のお小遣いじゃ無理かもしれませんけど、お年玉くらいで買えますよ。すごくいいことですよ。

時給1000円の人達が時給100万円の人を使う唯一の方法。これが株式投資なんです。これはすごいエキサイティングなんですよ。こういう考え方をする人ってすごく少なかったんですけど、私はそういうことをずっと追求してきました。日本では極めて珍しいタイプの投資家だと思います。

長期投資は知の総合格闘技

いい会社を見極めようっていう時に、必ず読むのが会社のアニュアルレポートです。これは会社の事業報告書、今年何があってどういう戦略を取って、どれくらい儲けましたとかっていう事業活動の内容が書いてあります。同時にその結果である財務諸表も載っています。皆さんでいう成績表ですね。その成績表を5年10年15年ずっと紐解いて分析します。

それで仮説を立てるんですね、さっき言った3つの条件に関する仮説。本当にそれって必要なんですか?その会社って本当に強いんですか?それって本当に続くんですか?

その3つの仮説を立てます。でも仮説って立てただけでは全く意味がないです。それを検証しないといけない。検証するために私達は今2ヵ月に1回以上アメリカや欧州に行っています。そうしてその会社の経営者に会ったり、工場を見させてもらったりします。

その会社に行くだけじゃないです。その競合企業、ライバル企業にも行きます。そこに原材料を納入しているような会社にも行きます。その会社が製品を売っている顧客企業にも行きます。

それで本当にこの会社はこの3つの仮説が成り立つのかっていうことを、ネジを1本1本締めるように確認していくわけです。投資というと濡れ手に粟みたいなイメージを持たれることが多いですが、実際にはすごく手間がかかっていて、私たちは投資もものづくりだと思っています。

例えばさっきのNIKEの例で言うと、NIKEはオレゴン州にあります。ものすごい広いキャンパスがあるんですけど、そこに行って話を聞くのは当然です。でもそれだけじゃない。だってNIKEに行ってあなたは強いですかって聞いて「実はうち弱いです」って言う人普通いないですよね。

だから当たり前のことなんですけど、私たちはそのライバル会社であるadidasにも行くわけです。adidasっていうのはドイツの片田舎にあって、そこもものすごい広いキャンパス、サッカー場みたいなキャンパスなんですけど超楽しいですよ。そういう所で実際に向こうの人と会って、自分の商品はねっていう熱い話を聞いてくるわけですよ。楽しいです。

あと余談で言うと、adidasっていうのはアディ・ダスラーという人が100年くらい前に作った会社なんですけれども、アディ・ダスラーとその一緒にやっていたお兄さんが仲違いをして、adidasとPUMAに分かれたんですね。なのでこの2社っていうのは文字通り兄弟会社でして、PUMAというのはadidasから15分くらい歩いた所に本社があります。

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こういう調査をする時に当たり前のように必要になるのが英語です。英語ができないと、アニュアルレポートも読めないし、adidasに行って話なんてできません。絶対必要です。

それから数学、当たり前です。数学の四則演算を使って会計学というのができていますが、会計学っていうのはもう世界のビジネスの共通言語です。これがわからない人は英語ができても全然意味がないです。英語なんて単なる道具ですから片言でも構いませんが、会計学は完全にできてなきゃいけないです。

あとは経営者と話をする時、普通にビジネスの話してる時だったら別にいいですけど、飲みに行ったりすると、当たり前にその人っていうのはどういう文化的な背景を持っているか、例えば京都についての歴史だとか伝統だとかっていうのを自分の言葉で喋れないと、向こうではエリートと言われません。そういう人とは誰とも組みません。

君達は少なくとも今洛南に来てるという時点でエリートです。間違いなくそうです。でもエリートっていうのは間違えてもらったら困るんですけど勉強ができる人ではないです。そうではなくてちゃんと社会貢献ができる人、それでそのためにちゃんとした文化的な素養を持った人。簡単に言うと教養を持った人。そうでないとビジネスは成り立ちません。

そういう人と人が組むものがビジネスですから、それは投資家と投資先の企業になっても全部一緒です。いずれにしてもこの3つ、3つだけじゃないです。そういう意味で言うと持っている全てを掛け合わせて戦うわけですね。だからここでは「知の総合格闘技」という風に言っています。色んな要素を全部使って勝負します。それで勝てば当然儲かるし負ければ損するしという世界です。

(パート2に続く。次回は1月15日頃公開予定です)