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「エコシステムの変化は顧客経験価値を大きく変える」顧客経験価値のための商品企画開発の実践 第31回


■エコシステムとは何か?なぜ重要か?

最近エコシステムという言葉をよく聞きますが、私はエコシステムを「産業生態系」と訳しています。エコシステムは、必ずしも契約関係にない企業、組織の大きな共生関係状態です。一方ビジネスモデルはしっかりとした契約関係かそれに相当する結びつきで、継続したシステムになっています。業界や産業よりも範囲が広く、業界を超えた連携が多く見られます。

アップルはISO陣営のエコシステムを形成しています。Googleはアンドロイド陣営のエコシステムを形成し、アップルのエコシステムとGoogleのエコシステムは、互いに共生し、インターネット、コンピュータ、AI、IoTなどで大きなエコシステムを形成しているといえます。このようにエコシステムは、エコシステム同士競争、共生し、また重層構造にもなっており、結局ネットワークされた状態なのです。

影響力の強いエコシステムは、過去から何十年も続いた業界、産業を大きく変える可能性があります。わかりやすい例は自動車業界です。日本に限らず若い世代ではクルマを持たない人が多くなっています。消費支出も、クルマへの出費は年々減少し、スマートフォンなどの通信費やゲームなどのコンテンツ等へお金が流れています。そしてここ数年、Google、アップルはじめ多くネット業界の企業が、地図情報、検索エンジンはじめ便利なアプリケーションなどで自動車産業に参入してきています。またダイソンなど、独自のブランド力と技術力で参入する企業や、IKEAなどがホームやオフィスインテリアでの経験を活かし参入してきたりもしています。自動車そのものも、電動化にともない、エンジンが電池とモーターに変わりますので、エレクトロニクス業界や素材、材料業界が積極参入してきています。その他サービス面では、ウーバーなどの配車アプリやカーシェアなども急速に普及してきました。

■エコシステムの変化は顧客経験価値を大きく変える

このようなエコシステムの変化は、、顧客の行動や思考、共感を変え、さらには感情、感覚、までも、つまり顧客経験価値を大きく変化させる可能性があります。イメージしやすいのはインターネット普及前と後です。インターネットでコミュニケーション、買い物、交通手段、食事の選択の方法など周りの全てが変わりました。

そしてネットで人の行動、思考、共感などの習慣がつくられ、その習慣がネット以外の自動車、住宅、公共空間など全ての領域の顧客経験価値に影響を与えています。一方ネット疲れ、繋がり疲れで、旧来のリアルのエコシステムの逆襲も見られますが、逆襲というよりは、やはり共生関係の中で互いに発展してきています。

今後はこのインターネット上で、IoTやAIが広まり、あらゆるエコシステムは急速にかつ大きく変化するでしょう。

■エコシステム分析の方法

顧客経験価値重視の商品開発で、エコシステムはどのように分析すべきなのでしょうか。

①影響因子踏まえ範囲を設定する
まずマクロトレンド分析で抽出した重要な影響因子を確認し、商品やビジネスモデルが影響因子によってどのような影響を受けるかを予測し、エコシステムの範囲を決めます。現在の自動車業界であれば、自動運転という点ではネット業界関連の全て、電動化という点では電池材料を開発する化学、素材まで広げなければなりません。自動車の用途拡大という点では、住宅、オフィスのインテリア、キャンプ、釣り、自転車などのアウトドア関連などです。

また移動という点では、鉄道、航空、船舶などで、さらにはネットの会議システムや5Gなどの高速大容量通信システム等も分析範囲に入れるべきでしょう。

②主な産業、企業を配置し関係性を分析する
次に、エコシステムの中に生存する主な産業、企業を配置します。企業レベルであげればきりがありませんので、代表的な企業や組織だけとなります。そしてその企業間、組織間の関係性を分析します。関係性とは、情報の流れ、カネの流れ、モノの流れなどですが、最も重要なのは情報の流れです。なぜならカネもモノも情報によって支配されるからです。

情報の流れは良く注意をして分析すべきです。共同開発契約を結んでいれば、開発情報が、技術や商標のライセンスをしていれば販売情報が流れています。購買していれば、サプライヤー生産数量、購入側の生産・販売数量が推定できます。そのほかエンドユーザーの利用情報(情報の種類、頻度、時間など)です。大まかでよいので、重要な情報は漏らさず分析するべきです。

③パワーシフトを分析する
エコシステム分析で、主なプレイヤー、関係性、特に情報の流れが分析できれば、エコシステムの中の大きなレベルのパワーシフトを分析します。
自動運転や電動化が進む自動車業界であれば、ハードではモジュール化が進むといわれておりTier1といわれる大手部品メーカーに、サービスでは、情報通信関連、配車アプリ、シェアサービスベンダーにパワーシフトされると言われています。

パワーシフトのドライバー(作用因)は、最終受益者の時間やコストの経済性そして顧客経験価値の向上です。

特に顧客経験価値は、感覚、感情、思考、共感などの個人の内面にかかわることで分析しにくいので、ドライバーとしての予想が簡単ではありません。しかし難しいからこそ差別化の源泉となりうるのです。また顧客経験価値は常に変化しますので、エコシステムのパワーも永遠に変化していくことになります。

ニューチャーネットワークス
代表取締役 高橋透

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