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佐渡に金山を見に行かない。その①

 日本各地のお祭りを見てみようと思い、その第一回となったのが佐渡「つぶろさし」だ。数年前に行ったのだが、忘れないうちに当時の記録と記憶を掘り起し書き進めようと思う。

 私は佐渡島の近くに住んでいながら、佐渡のことをほとんど知らない。佐渡のことについて訊かれてもパッと思いつくのは「金山・トキ・たらい舟」程度のことで、日本地図をみながら「案外大きいなぁ」とかそんな間の抜けたことしか口から出てこない。

 であるならば実際行ってみるしかない。しかもなにやら面白そうなお祭りもある。

羽茂祭りは毎年6月15日に開催される予定だ。

そんなわけで今回は「羽茂はもち祭り」を見学しに佐渡へと向かった。

 佐渡へ行くには船で行く必要がある。「ジェットフォイル」と「カーフェリー」の二種類があるが、よほど急いでいないかぎり「カーフェリー」がおすすめだ。カーフェリーには様々な施設があり、着くまでの時間をゆっくりくつろいで過ごすことができる。

 船は両津港に到着。約二時間半の船旅である。揺れに弱い私もまったく酔わなかったので船酔いはよほどひどくなかぎり安心だろう。到着先である佐渡汽船の中には観光案内所もあり、とても親切に教えてくれるので初めての佐渡でも安心して観光できる。私はそこで1DAYバス乗車券を購入。単身羽茂へと向かった。
 
 ここで注意したいのがバス時間だ。バスで移動する際は時刻をしっかりと把握しないと帰れなくなってしまう。それほど本数が少ない。ただ佐渡ではフリー乗降制を導入しており、バスの運転手さんに言えばどこでも自分の好きなところで降りられるのである(路線内であれば)。そんな制度があることを知らなかった私は、バス停のない田んぼの途中や自宅の前で停まるバスに不思議な可笑しみや懐かしさを感じつつしばしバスに揺られた。

 お祭りの開催地羽茂へと向かうのだが、船が到着した両津とは正反対である。そして佐渡は意外と大きい。実際上陸して移動時間を聞くと改めて佐渡の大きさに驚く。これは完全に油断していた。この無計画さが後々のアクシデントへと繫がるのだがひとまず置いておく。羽茂へはバスで乗り継ぎ一時間半ほど。さらに道が驚くほど狭く、悪い。山と海に囲まれた佐渡は急なカーブも多く、車の運転をしていると景色を楽しむ心の余裕はなさそうだ。その点バスは振動さえ気にしなければ外を眺めて景色を楽しむことができる。ガタガタとケツを叩くバスに揺られながら見える景気は一面田んぼと山である。見わたすかぎりの田園風景というのはなかなかお目にかかれない。普段見ている草木と、田んぼや山々の風景はどこが違うのだろう。同じ緑のはずなのに、ほっとする。安心感がある。そんな景色がどこまでも続いていた。

 集落に入るとまた違った眺めになってくる。昔ながらの古民家に混ざって新築の洋風の家、廃屋が混在しており、まるで自分が遠い異境の地へ来たかのような錯覚を覚えた。寺社仏閣が非常に多いようにも感じられる。さらに辻や境目には道祖神やお地蔵様の祠が祀ってあるのも気になった。配流地だったことも関係しているのだろうか。それに関係して真野御陵(順徳天皇御火葬塚)なども存在している。

 長い時間バスにゆられ羽茂地区へ到着。
 臨時駐車場は満車、さらに地域の学校や店はほとんど休みになっていて、「羽茂祭り」への力の入れようが窺える。

 神社の方では朝の6時から若衆鬼太鼓や大獅子舞が奉納されている。ちなみに今回見に来た「つぶろさし」であるが羽茂の中の地区でさらに分かれて伝わっており、全部で三つある。時間が重なっているので全部見るのは難しそうだが、安心して欲しい。「羽茂商工会前広場」ではすべてのつぶろさしを見ることができる。また商工会前ではマジックや大道芸人によるショーも行われていてそちらも見逃せない。


艶っぽい身のこなし。太神楽つぶろさし・菅原神社

 最初のつぶろさしは「菅原神社」に奉納される「太神楽つぶろさし」
名前の通り「菅原神社」は学問の神である「菅原道真公」を祀っている。社宝として円面懸仏・扇面懸仏・全銅十一面観音座像があるそうだ。

「太神楽つぶろさし」は羽茂本郷につたわる伝統芸能だ。
 羽茂地頭の本間氏が茶道修業のために京へと遣わした葛西三四郎というものが持ち帰り、城中の荒神社に「一粒万倍」を祈願し奉納したことが始まりなのだという。


つぶろさしを誘惑するささらすり

 まず登場するのは男根様の棒をもったつぶろさし。最初は棒を振り回しながら登場するがやがて定位置におさまる。このつぶろさしは物語になっているらしく登場人物にも背景がある。
・つぶろさし→精力絶倫の醜男
・ササラすり→美しい女性がササラという竹の棒をこすりあわせて音を出しつぶろさしを誘惑。ギロのような音を奏でる
・銭太鼓→不美人で顔を隠しているがグラマー。肉体美でつぶろさしを誘惑
説明では三角関係ということらしい。さらに後ろの獅子は天照大神を表現しているのではないかとのこと。


踊りがキレキレな銭太鼓さん(左)

 そうこうしているうちに銭太鼓が登場。銭太鼓で身体の様々な部分を叩き、つぶろさしを誘惑。笛太鼓の音にあわせて三人はしばらく踊りつづけフィニッシュを迎える。お察しの通り、五穀豊穣・子孫繁栄を祈った神楽である。そしてこれは原則、家の長男しか参加できないという。やはりここが地域のお祭りの難しいところで、伝統と現実をどうするのかという問題がのしかかってくる。存続のためには少子高齢化と人口減少への対策が必須となってくるだろうし、しきたりへの変化対応も考えなければならないのかもしれない。

 今回三つのつぶろさしを見たが個人的にはこの「太神楽」がいちばん良かった。初めてつぶろさしを見たという興奮もあると思うが、三人の身のこなしや嫉妬、興奮などの表現が素晴らしく見ていて泣きそうになったぐらいだ。特に銭太鼓の人のキレが素晴らしい。止めるところは止めることでメリハリが生れていて動きも見ていて面白い。さらに各人の面は古く見え、ささらすりに関しては女性かどうか判別不能な面であった。男根様の棒もしっかり作られていて、先端には穴があり、根元には毛が生えている。

 それぞれ三つのつぶろさしは衣装や道具、舞い方も微妙に異なっているのでそちらにも注目してほしい。

その②はこちら


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