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【読書】『マルタの鷹』

なんか名前だけは聞いたことあるけど読んだことはない、それがマルタの鷹。
平々凡々な私でも名前は知っていて、それでいて昔からある、いわゆる『古典』と呼ばれてそうな雰囲気もあり、自分の中でイメージが独り歩きしてしまって「なんかすっごい難しそ~~~~~」と思って敬遠してました。


さてこの『マルタの鷹』、どのように表現しようかなーと単語を思い浮かべたところ…。

雑、荒っぽい、読みにくい、長ったらしい、じれったい、ぶっきらぼう、不親切、荒削りetc…。

…なんともボロクソにいってるように見えるかもしれない。
が、決してつまらなかった、面白くなかったからこう言ってるわけではなく、むしろ面白かった、新鮮な感覚だった、そしてこの作風が好きだからと感じた上での感想だと、あらかじめご容赦願いたい。


ではなぜこのような印象を受けたのだろうか。
それは作中で「今どんな状況なのか」といった状況説明や、主人公の心理描写がひとっつもないのだ。
昨今の隅々まで行き届いた過剰サービスばりの丁寧な表現や、コテでこれでもかと優しく撫で付けるような詳細な心理描写は一切ない。

おまけにこの作品に出てくる人物たちー腕っぷしはあるが相棒の妻との不義理の仲と、なにかと胡散臭い主人公…自分のことばっかり考えていて、それでいて肝心なことはもったいぶってなかなか話さない依頼人…ムジュラの仮面に出てくるお面屋並みに怪しい「G」ーと、脳内の千鳥ノブが「クセがすごいんじゃ!!!!!」とツッコミを入れてくるくらい一癖も二癖もある人物たちばかり。


それらが組み合わさって淡々と進んでいくさまは、『話の内容は自分たちで考えろ。俺たちは勝手にやる。ついてこれない奴はそれでも構わん。』とばかりに、読者を置いてけぼり、あるいは突き放すような、そんな感覚を覚える。
さながら映画館で映画を見ているような気分になるのだ。
読書であれば「ちょっと待って」とページを戻って内容を確認することができるが、映画館で映画を見てる場合はそうにもいかない。「ちょっと待って、巻き戻して」とはできず、映画のペースに合わせるしかない。

このように淡々と、簡潔に、客観的な描写の作品をハードボイルドと呼ぶそうな。
確かにその手法文体を一度感じてしまうと、「これがハードボイルドだ」と言われたら「ああなるほど…たしかにね…。」と、とりあえず納得してしまうくらいの迫力がある。


今はあまり使われなくなった言葉、『男の中の男』ーラギッドな男ーそこにはありました。

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