創作物が与える全パターンを描いた漫画【藤本タツキ『ルックバック』考察】
本作はかなり感情に訴えかけてくるものがあるので、感動が先行しすぎて冷静に考察されていない印象を受けます。
私自身、本作が「ジャンプ+」において無料公開されている時に読んだのですが、ここ最近になってようやく整理された次第で、本記事を書くことにしました。
結論としては、本作は「創作物」が人々に与える影響パターンの全パターンを描いた作品だと言えます。
一つずつ確認していきましょう。
①人を楽しませる
藤野は学年新聞に掲載された自作の四コマ漫画によってクラスメイト達を楽しませていた。
②名誉を得る(商業作家になることも含む)
藤野はクラスメイトから「将来は漫画家だね」と持て囃され、サインをせがまれていた。
③他作品によって名誉が失墜する
京本の描いた四コマ漫画によって藤野の名誉が損なわれてしまった。
④ファン及びライバルができる
京本は藤野の四コマ漫画のファンだった。
また同時に互いを高め合うライバルとしての関係性があった。
⑤孤立に向かう
京本に関しては、引きこもりになってからなのか、なる以前からなのかは分からないが、孤立の中で絵を研鑽していた。
ある側面では、絵の研鑽が京本の孤立を深めたとも言える。
藤野は日々、絵に向き合い続けた結果、家族やクラスメイトからも疎まれて、孤立の中、絵を描き続けた。
⑥誤解を与えうる
ここが一番重要ですが、作中では最悪の場合が描かれた。
京本が描いた作品(正確には美大生の誰か、もしくは誰でもない)によって、ある男性の”誤解”を生んでしまった。
皮肉なことに本作も偏見や差別を助長するのではないかと批判されました。(下記は少年ジャンプ+編集部の公式Xのポスト)
これはある側面で正しい主張かもしれないと私も思いますが、本作では創作物が人々に与える影響の最悪の場合と、最高の場合も対にして描いた作者の意図を考慮しなければなりません。
ではその最高の場合とは何か。
⑦前へ進む勇気を与えうる
京本は不登校生徒、引きこもりだった。
藤野が描いたマンガはそんなダークサイドに落ちた人を外へ飛び出させるほどの影響を与えた。
立ち直れないような出来事に突き当たった時、二度と戻れない過去を見つめる時、「死」の方向を見つめる時、フィクションを読んだり、描いたりすることとで、もう一度「前へ”振り返る”勇気」をくれる。
それが創作物じゃないか!
と藤本タツキは言っているのです。
また、終盤において藤野にとって都合の良い妄想が描かれたのは、
「そういった自分のためだけに創作された『妄想』は人を後ろへ向かせる効果しかない。
だからこそ自分にも他者にも向けて創作された『物語』が必要だ。」
ということを暗示していると私は考えます。
だからこの『物語』のタイトルは
「ドント ルックバック(振り返らないで)」
ではなく
「ルックバック(”振り返れ”)」
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