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筆者の「進路」と河合隼雄先生


はじめに


筆者は50代であるがそれほど先は長くなく、せいぜい10年ほどであろうと考えている。明確な根拠があるわけではないが、同様の病歴を持つ人の余命を概算するとそのぐらいなのだ。筆者はすでに大病を患ってきた(といって過言でない)し、より大きな病の疑いも過去に複数回かけられている。問題は残りの人生を、どう有意義に過ごすかだ。やり残したことがあるとするならば、明確な現実適応だろうか。

ユングの心理学と河合隼雄先生

ユングという心理学者は人間の人生を、「個性化の過程」であると表現した。ごく簡単に言えば「その人がその人らしくなってゆく円熟のプロセス」ということである。そうしたユングの心理学を日本に知らしめた先駆者の一人が、河合隼雄(かわいはやお)先生だ。先生はスイスへ留学されたが、年齢的にユング本人には会えなかったそうである(河合隼雄『ユングの生涯』レグルス文庫)。だが筆者は隼雄先生に(親しみを込めてそう呼ばせていただく)直接お会いし、個人的な話を何度かしたことがある。何もクライエントとして面会したわけではない。いずれも電車の駅で偶然に出会い、それぞれ5分かそこら雑談をしただけだ。けれどもそのときに受けた印象、お人柄というのは独特で、忘れられないインパクトがあった。現在自分の「進路」を考えるにあたって、このことが思い返されるのも不思議ではない。筆者の内面の動きは、当時からひと続きなのではないかと思うのだ。

初めて隼雄先生と話した時のこと

35年以上前、筆者が高校に上がるくらいの頃のこと。関西で日本の古典についての講演会があり、講師に隼雄先生の名前があったので申し込んだ。そのころ筆者はすでに、隼雄先生の名前は聞き及んでいた。ご著書もいくつか読んでいたし、テレビでもお姿を拝見していたはずである。講演は、題材が難解なわりには分かりやすかった。もちろん先生の冗談を直接聴くのも初めてであった。講演の際に自分で取ったノートを、今も大切に残してある。筆者は日本の古典と心理学の奥深さを知ると同時に、そういう題材が自分の抱える問題と関わってくる予感も覚えていたように思う。

この講演会の帰りだったはずだ。帰路につき、電車の中を歩いていたときのこと。ふと、あの個性的な顔立ちが目に入ったのである。筆者はまだせいぜい中学生に毛が生えた程度、いま以上に世間知らず。思わず話しかけていた。

「河合隼雄先生でいらっしゃいますね?」

先生はうなずかれた。ちょうど隣が空いていて、私は腰掛けたと思う。

「先生、人間はいつから青年期でしょうか」

筆者の質問に対し、先生はしばらく黙っておられた。三秒ほどして、筆者は自答した。

「……そうか、明確な決まりなんて無いんですね」

すると先生は即座にこう言われた。

「そうそう」

筆者は「先生の口癖が出た」と思った。そこから駅に着くまでの数分間、雑談が始まった。あとは次のような話をしたことのみ覚えている。

「たくさん本を書いていらっしゃいますね」

「あれはね、書き出したら結構早いんだけど、調べものがたいへんでねえ。何ヶ月もかかる。まあ今日の講演(の書籍化?)なんかは、録音するのが前提なんやけどねえ」

筆者が隼雄先生と個人的なお話をしたのは、これを含めて3回ほどである。クライエントでもない筆者のことを先生がいちいち、覚えていらしゃったかどうかも定かではない。先生は十数年前に亡くなられたが、筆者の心理治療を担当するセラピストたちの多くもその影響を受けている。直接ではなくとも過去から、大きな恩恵を受けてきているわけだ。

筆者の「進路」

さて、50代になった筆者が、今になって「進路」を考えているというのはどういうことか。実は専門を心理学にするか、人類学にするか考え中なのだ。そして最近、「心理人類学」と呼ばれる分野があり、隼雄先生の業績の中でも自分がいちばん興味を惹かれている内容に近いことを知ったのである。これは筆者がアメリカ留学中にしたためたものの、隼雄先生のご著書に結論が近すぎるとしてすでに note に公開した英語の小論文と同じ領域である(リンクを貼っておく)。

この分野に進むのであれば、人類学方面に舵を切ることになるだろう。また心理学方面であれば(大学学部課程をやり直すことになりそうだが)公認心理師の資格取得を目標にすることになるかと思う。いずれにせよ隼雄先生なら、「自分のエロス(性のみならず、人間の本質的な興味や欲求)が動くほうにしなさいよ」とおっしゃるのではないだろうか。


おわりに

残りの時間で何をどこまでやれるかは定かでない。だがレポートの一つや二つは書きたいものである。河合隼雄先生ならびに、ここまで筆者の一人語りをお読みくださった皆様に感謝申し上げます。




私の拙い記事をご覧いただき、心より感謝申し上げます。コメントなどもいただけますと幸いです。これからも、さまざまな内容をアウトプットしてゆく所存です。どうぞよろしくお願いいたします。