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チャット風インタビュー記事は難しいのか|スマホ世代と黒電話世代ライター、歴然とするコミュ力の差

Q&Aのインタビュー記事よりも、さらに短いやり取りで読ませる、チャット風のインタビュー記事がある。自然な会話文が吹き出し形式で繰り出され、実に小気味よく展開していく。インタビュアーとインタビュイーの対話を目の前で聞いているかのようなテンポだ。

活字離れと言われる昨今、読者に記事を読了してもらうため、ライターや編集者はありとあらゆる知恵を絞る。一説では、若者が読了する記事は3500字が限界なのだそうだ。小説のカテゴリーにケータイ小説なるものが出現して久しいが、ツイッターのような短文のSNSが発達したことを踏まえれば、チャット風の記事が出現したのは当然の流れだろう。

では、書き手としてこのチャット風記事を分析してみるとしよう。

一見簡単に書けるように見えるが、短い会話文で必要な事柄を説明するのはかなり難しい。当たり前だが「チャット風」であるだけで、チャットではない。見たことも会ったこともない読者が、画面の向こうに大勢控えているのだ。お友達やグループにLINEするのとはわけが違う。

往々にして、日常の会話やチャットでは主語や目的語が省かれることが多い。さらに代名詞がよく使われる。事情を知らない人が聞いたら、なんのことだかサッパリわからないのが会話文だ。そのため、日常の会話文のノリで原稿を書くと、読者には全く伝わらない記事になる。

会話文の体裁を持ちながら、会話文ではない。ここにチャット風記事の難しさがある。

ある編集者は、このような記事を書く際、「文字起こしはしない」と話していた。臨場感を大切にするため、取材後にバーッとパソコンで打ってしまうのだそうだ。文字起こししない…。取材後にバーッと…。遅筆の私には、めまいがするほどうらやましい技である。

しかしながら、文字起こしは、自分でやるにせよ外注するにせよ、大切な作業ではなかったか。自分でやるのは正直めんどくさいが、取材時には気づかなかった発見があり、おろそかにできない。文字起こし資料は、いわばライティングのエビデンス。それなしで、バーッと書いてしまう。

すごい、思わずうなる。けど、自分にはできそうにない。では、チャット風記事を書ける人、書けない人の違いは何だろうか?

こじつけの極論だが、時代によるコミュ力の違いではなかろうか。コミュニケーション様式は世代によって大きく違う。私はアナログ世代。この世代のコミュニケーションといえば、たとえば小学生の頃に流行った交換日記が挙げられる。2人、もしくはそれ以上の人数で1冊のノートを共有する。書くことは日記でも手紙風でもいい。順番に回しておのおの好きなことを書き、互いに書いたものを読むのだ。戻ってくるまで優に1週間はかかった。そのまま交換が途絶え、どこにいったかわからないノートもある。また友達を遊びに誘いたいと思ったら、黒電話の受話器を持ち上げてダイアルを回し「こんにちは、○○ですけど〇〇ちゃんいますか?」と名乗らないといけなかった。スローでおおらか。これが黒電話世代のコミュニケーションだ。

スマホ世代には、ダイレクトでスピード感あるコミュニケーションが当たり前なのだろう。チャットだと自分の名前を名乗る必要もない。すぐさま要件に入る。瞬時に相手に伝わり、即座に反応がある。固定電話が自宅にない人も多いのではないだろうか。電話がツヤツヤに黒光りして玄関口のレースの上で鎮座していたことや、ダイヤルをいちいち回さなければならないことを知らない人もいるのではないか。もちろん黒電話は電話番号を覚えていてはくれない。スマホ世代のコミュニケーションに必要なのはデジタル機器。学生時代からSNSがインフラとして存在ていたスマホ世代は、話し言葉よりも文字によるコミュニケーションに長けているのかもしれない。

スマホ世代と黒電話世代。両者には、歴然たるコミュ力の差がある。コミュ力の差といっても優劣ではないと思うのだが、スマホ世代のライターは、きっとお友達に話しかけるように、万人に訴える記事をサッと書いちゃうんだろう。なんだかうらましい。

いやいや、黒電話世代のライターにもきっと強みがある。大切な親友に交換日記をしたためるように、愚直に文字を綴る。そんな記事を愛してくれる読者も、どこかにいるのではないだろうか。

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