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【書評】戦火と政府から命がけで逃げた全裸の少女ー「ナパーム弾の少女」五〇年の物語を読んでー

書店で見つけ、手に取らずにはいられなかった"「ナパーム弾の少女 」50年の物語"を読了した。表紙の写真は誰もが目にしたことがあるのではないだろうか。ピュリッツァー賞を受賞した有名な写真である。

ベトナムを南北に真っ二つにし、米ソが熾烈な戦いを繰り広げたベトナム戦争。この戦争では、ナパーム弾という悪名高き非人道兵器が使用された。この兵器は、ガソリンに化学薬品を混ぜて粘度を上げ、爆発したら対象にガソリンがへばりつき、900℃~1000℃の高温で焼き尽くすものだ。原料にヤシ油が使われたことでナパーム弾と名付けられた。

写真は、ナパーム弾を被弾した人々の写真だ。ナパーム弾は直撃すると死は免れられないため、被弾後に逃げる人々の写真は稀有である。戦争そのものが罪であるのに、さらになぜ非人道的な兵器をつくる必要があるのか。戦争はかくも人々の思考を狂わせるのか。

中央の少女の名前はキム・フックさん。被弾するまで当然着衣していたが、ナパーム弾で着ていた洋服が一瞬にして燃え落ちたのだ。写真はモノクロだが、実際は皮膚がピンクや黒に染まっていたと聞く。
キムさんは全身の3分の1をⅢ度以上の熱傷を負い、生死の境をさ迷った。重度熱傷治療には激痛を伴う。キムさんは何十回もの手術を受け、傷が回復したのちも神経疼痛や汗腺の欠落による体温調節不全に苦しめられた。

サイゴンが陥落し、戦争が終結し、穏やかな日常が戻ってくるはずだった。しかし、キムさんにはなおも自由は訪れなかった。そしてキムさんが取った行動は――。

戦争は人類に対する大罪だ。非人道的兵器の使用は、人間の残忍性を思い知らされる悪夢だ。そして罪なき市民の人生を狂わす。目をそらしてはならない事実は、今この瞬間も戦火に巻き込まれている人々がいるということ。ウクライナでは、同じく非人道的兵器である生物兵器の使用が疑われた。ウクライナも、ほんの半年前までは戦争の足音など聞こえないほど平和だった。人々は自分たちが戦火に巻き込まれるとは夢にも思っていなかったはずだ。ゼレンスキー大統領でさえロシア侵攻はあり得ないと楽観していたのだから。

これから先も、日本人は自由を謳歌できるのだろうか。日本にナパーム弾が落とされる可能性がまったくないと、誰が言えるのだろうか。


藤えりか:ナパーム弾の少女 五〇年の物語,KODANSHA.

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