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『キッチン』吉本ばなな

🍌あらすじ🍌
家族という、確かにあったものが年月の中でひとりひとり減っていって、自分がひとりここにいるのだと、ふと思い出すと目の前にあるものがすべて、うそに見えてくる―。唯一の肉親の祖母を亡くしたみかげが、祖母と仲の良かった雄一とその母(実は父親)の家に同居する。日々のくらしの中、何気ない二人の優しさにみかげは孤独な心を和ませていくのだが…。世界二十五国で翻訳され、読みつがれる永遠のベスト・セラー小説。泉鏡花文学賞受賞。─本書あらすじより


🍌感想🍌
自分の家族を失ってしまった男女が出会い、家族になる。
ストーリーはシンプルだけれど、繊細さや喪失感、また失ってしまうことへの恐怖を感じました。
世界は決して自分たちのためにある訳では無いから、不幸はいつだって平等に訪れる。
それなら、今そばにいるあなた(雄一)と手を繋ぎたいとみかげは思う。
でも二人は手を繋がない。
どんなに心細くても二人は自分の足で立とうとする。
そんな二人を人間として強く思うと同時に、弱くも思えた。
誰かの肩に寄りかかる勇気を持つのも強さのひとつ。
そう、例えばそれは誰かと食事を共にしたりだとか。

とでも文章が豊かで、優しくて、読後に愛おしくなる不思議な作品でした。

♡こころの付箋♡
p60人生は本当にいっぺん絶望しないと、そこで本当に捨てらんないのは自分のどこかなのかはわかんないと、本当に楽しいことが何かわかんないうちに大きくなっちゃうと思うの

p80乾燥機にかけてごうんごうんと回っているのを見ているうちに、心が実にしっかりしてきたのがわかった。どうして私はこんなにも台所関係を愛しているのだろう、不思議だ。魂の記憶に刻まれた、遠い憧れのように美しい、。ここに立つと全てが振り出しに戻り、何かが戻ってくる

p82彼女たちは幸せを生きている。どんなに学んでも、その幸せの域を出ないように教育されている。多分あたたかな両親に。そして本当の楽しいことを知りはしない。どちらがいいのかなんて、人は選べない。その人はその人を生きるようにできている。幸福とは、自分が実はひとりだということ、をなるべく感じなくていい人生だ。私も、そういうのいいな、と思う

p91隣にいるのは確かに、この世の誰よりも近い、かけがえのない友達なのに、二人は手を繋がない。どんなに心細くても自分の足で立とうとする性質を持つ。でも私は、彼のこういう火に照らされた不安な横顔を見て、もしかしたらこれこそが本当のことかもしれない、といつも思う。日常的な意味では二人は男と女ではなかったが、太古の昔からの意味合いで、は本物の男女だった

p113本当にわかったことがあったの。口にしたらすごく簡単よ。世界は別に私のためにあるわけじゃない。だから、嫌なことが巡ってくる率は決して、変わんない。自分で決められない。だから他のことはきっぱりと、むちゃくちゃ明るくした方がいい

p127人は状況をや外からの力に屈するんじゃない、うちから負けが込んでくるんだわ。と心の底から私は思った。この無力感、今、まさに目の前で終わらせたくない何かが終わろうとしているのに、少しも焦ったり悲しくなったりできない。どんよりと暗いだけだ。どうか、もっと明るい光や花のあるところでゆっくりと考えさせてほしいとは思う。でもその時はきっともう遅い

p166人との間にとったスタンスをけして崩さないくせに、反射的に親切が口をついて出るこの冷たさと素直さに、私はいつでも透明な気持ちになった。それは澄んだ感激だった。その感じを私は今、生々しく思い出してしまった。懐かしかった。苦しかった

p171後から思えば、運命はその時一段も外せないハシゴだった。どの場面を外しても述べ登りきることはできない。そして、外すことの方がよほどた安かった。多分それでも私を動かしていたのは、死にかけた心の中にある小さな光だった。そんなものは無い方がよく眠れると私が思っていた闇の中の輝きだった

『キッチン』吉本ばなな





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