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『ファーストラヴ』島本理生

❤あらすじ❤

父親殺害の容疑で逮捕された女子大生・環菜。アナウンサー志望という経歴も相まって、事件は大きな話題となるが、動機は不明であった。臨床心理士の由紀は、ノンフィクション執筆のため環菜や、その周囲の人々へ取材をする。そのうちに明らかになってきた少女の過去とは。そして裁判は意外な結末を迎える。第159回直木賞受賞作。ー本書あらすじより。


❤感想❤

今までいくつもの”言葉では言い表せない関係”が内包されている小説を読んできました。本作もそのひとつです。どう表現したらいいのかわからない、でもそこには深い絆があって二人にしかわからない世界がある。お互い同胞だと思っているからこそ、越えられないものがあり侵してはいけない領域がある。でも、相手に対する不満(仲間だと思っていたのに裏切られる)や嫉妬で若さゆえに強がっては、その同胞を傷つけ修復不可能な関係までに追いやる。そんな二人が、ある事件をきっかけに対峙し交じり合う。事件を追いながら自分の「領域」を守りつつ相手の「領域」にも気を遣う。

切なくて、苦しくて、もどかしくて、何より時間を戻せないことが歯がゆくて泣きながら読みました。これは自分にも当てはまることで、気まずくなった旧友と和解したいけどできないそれと同じものを感じました。

また、読んでいて思ったのは、冒頭部分に臨床心理士である由紀のカウンセリングのシーンががるのですが、そこで由紀が「あなた求めているものは?期待しているものはそこで手に入ると思う?」と患者に問いかけるのが読んでいる自分(正確には過去の自分)にも向けられたような気がしました。敢えてここでは言いませんが、わたしの10代後半~20代前半は由紀にカウンセリングを受けに来る患者と同じようなことで悩んでいます。実際にカウンセリングも受けていましたし、同じような受け答えをしていたので、”私だけじゃなかったんだ”と安堵している自分がいました。

『ファーストラヴ』は間違いなく私の中で思い出深い作品になりました。

過去の自分を投影しつつ、作品の中で起こる出来事に対して”これはどれ程の苦痛なのだろう”と主人公である由紀と一緒に考えながら読んだ作品でした。島本理生さんの作品は、『ナラタージュ』、『Red』、に続き三作目ですが、すっかり島本理生さんの作品の虜になってしまいました。他の作品も読んでみたいと思います。

♡こころの付箋♡
p20 以前見た映画の中にね、こんなセリフがあったの、奪われたものを取り戻そうとしてさらに失う、どういう意味かわかる?

p161 精神的な不安定さって年齢を重ねても残るっていうか、それは家庭環境が大きいものですよね。大人なんだから親は関係ないってどこまで言い切れて、どこまでが社会が認めて考慮すべきものなのかなって

p202 それは今から思えば定まりきらない関係を維持するための手段だった、ごくわずかな期間、性別に関係なく必要とし合える相手に出会えた幸福が2人を包んでいた

北川景子、中村倫也、芳根京子、窪塚洋介出演で2021年2月11日映画化予定。

『ファーストラヴ』島本理生



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