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現役最古の国産プラネタリウムを見る

最後にプラネタリウムに行ったのはいつだっただろう。思い出せないぐらい前のような気がする。一番の思い出は小学生のころ、校外学習で仙台市天文台のプラネタリウムに初めて行き、星の世界に魅せられたことだ。満天の星空に浮かび上がるギリシャの神々。それから約半世紀、日本製の現役最古のプラレタリウムが一般公開されるとテレビのニュースで知り、6月初めの週末、散歩がてら見に行ってきた。

訪れた先は東京海洋大学。東京商船学校や東京商船大、東京水産大学などを前身に持つ、海のエキスパートを育てる大学だ。その越中島キャンパスが近所にあり、いつもは見られない校内が学園祭で開放されると聞いて、行ってみた。コロナ前には勝手に構内をぶらぶらしても怒られなかったが、コロナ以降は「関係者以外、立入禁止」が厳しくなったようで、公然と部外者が入ることができるよい機会が学園祭というわけだ。

海洋大学になぜプラネタリウム?当然でしょう。昔は天体測定によって船の位置を知り、航路を定めていたんだから。学園祭でもらったうちわに書いてあった「東京高等商船学校寮歌 ああ月明」の出だしはこういう歌詞だ。

あゝ月明は淡くして 北斗の星の冴ゆるとき

海洋大学の構内には「現存する日本最古の天文台」と推定される「東京商船大旧天体観測所」まで残っているのだ。海運と天文学は切っても切れない関係、プラネタリウムも研究や授業に使われていたのだそうだ。

学園祭初日の土曜日は昼の12時からだったのだが、ちょっと前にキャンパスに行ってみると、明らかにプラネタリウム目的とみられる人が多数。入場が始まると、プラネタリウムがある建物にダッシュする人も。階段を使って建物の屋上のプラネタリウムに入る。座ると、古い木製の椅子の背もたれが思い切り倒れるようになっている。座り心地とかリクライニングとかとは無縁の素朴さが潔い。

実は私自身、このプラネタリウムが一般公開されると知ったのは、NHKテレビ、朝の番組「おはよう日本」で紹介されたことがきっかけだった。

東京海洋大学のプラネタリウム投影機「M-1型」は1965年(昭和40年)設置というから、ちょうど私と同い年。それだけでなぜか親近感が沸くのだ。昨年、一般社団法人日本機械学会の「機械遺産」に認定されたそうだ。エライ。

由緒ある投影機を管理、上映したのが学内サークルの「海事普及会」というのもユニーク。上映中の説明は1年生が担当するのが恒例だという。部員の学生さんにピースポーズで写真を撮らせてもらったが、SNSにアップするとは言わなかったので、ここでは省略。

最近のプラネタリウムは、迫力ある凝った映像、音声を使い、星座にまつわる物語についてのエンタメ性の強い「天文ショー」も多いようだ。特に投影機の高性能化は著しく、横浜市の「はまぎん こども宇宙科学館」のプラネタリウムは少なくとも7億個の星を投影でき、昨年ギネス記録に登録されている。ホームページの写真を見ると、おびただしい光の点が見え、肉眼で見える星の数とかけ離れすぎていて、かえって現実感が感じられない。一言で言うと「すごすぎる」。

はまぎん こども宇宙科学館のホームページより


一方、こちら海洋大の「M-1型」はいたってシンプル。投影できる星の数も4500個だそうで、肉眼でみるのとさほど変わらない感じ。自分が子供のころに訪れたプラネタリウムでも、星を結んだ星座に重ねて動物や神々の姿が投影されたものだが、そういう仕掛けも全くなし。赤外線のポインタで「このへんが南十字星で…」などと説明があるだけで、やや拍子抜け。逆に、そのシンプルさが「昔はこんなものだったのか」とかえって感心させられた。

わずか10分ほどの説明の後は記念撮影タイムとなり、いろいろと写真を撮らせてもらった。こういう古いものを大事に残してくれていることに感謝。しかも、それが博物館に飾られているのではなく、学生さんたちの手によって現役で動かされていることにちょっと感動を覚える。

プラネタリウムをつくったのは東京都府中市にある五藤光学研究所という会社。創業は1926年(大正15年)、天体望遠鏡を専門につくっていたが、プラネタリウムの国産化に成功し、ウィキペディアによると、プラネタリウムでは世界市場の4割、日本では66%を占めている。とにかく日本のプラネタリウムの代名詞と言ってもいいメーカーのようだ。

そもそも、近代的なプラネタリウムはドイツで1923年に発明された。ちょうど100年が経過したばかりだ。日本では1937年に大阪に設置されたのが初めてで、第2次世界大戦が始まる前のことだった。

NHKの記事によると、日本は「プラネタリウム大国」だそうだが、課題もある。自治体が管理、運営しているところが多く、財政難によって老朽化した施設を更新できず、閉館や休館に追い込まれているところが多数あるのだという。

すっかり足が遠のいていたプラネタリウム。暇を見つけて、今度は最新の技術を体験しに行ってこよう。

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