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【読了002】鮎川哲也『沈黙の函』

 落水周吉と茨木辰二は、掘り出し物の中古品も商うレコード店を共同経営している。仕入れ担当の落水は、函館の製菓会社副社長宅で珍しい初期の蝋管レコードを見つけた。蝋管レコードには古い手紙が付いていたが解読不能、何が吹き込まれているのかも不明だった。引き取りに再度出向いた落水は、函館駅からレコードを発送したまま行方不明に。無事上野駅に到着した梱包をほどいてみると、中には落水の生首が! 鬼貫警部の名推理。

Amazonより

 犯人云々ってことからいえば正直そんなに大したことないのに不思議と面白かった本。なんでだろう、雰囲気? 設定? キャラクター?

 まず「レコード屋」っていう舞台設定が好きだったのかな。音楽とかレコードとか全然詳しくないんですが、未知の世界をちょっと覗き見られるのが楽しかった。
 特殊な業界や事柄についてやたらめったら書きすぎてるやつあるじゃないですか。ああいうのちょっと苦手なんです。「必死に調べたことをもれなく書こうとしてるの……?」みたいに感じてしまうようなのはちょっと鼻についちゃうっていうか……。この本くらいの雰囲気がちょうどいいんです。

 あと、王道ですよね。うん。すっごい王道。それも良かった。いかにも何かありそうなブツを受け取った人が、いかにもな感じで音信不通になって。あの「きたきたきた~~」っていうワクワク、やっぱりいいんですよ。好きなんです。いかにも「物語」って感じしません? それがいい。
 ガチガチのリアル路線もたまにはいいし、猟奇方面に思いっきり振り切った小説も大好物なんですけど、やっぱり「私の港はここだなあ」っていう安心感がありました。

「いやそれはどうだろうか?」って思う部分も正直あったんですけど。「それはさすがにもっと早い段階で分からない?」とか「その理屈でなぜいけると思った……?」とか色々。
 でもこういう空気のものを久々に読んだせいか、そういうのも込みで楽しめてしまいました。この「久々」ってのも多分ポイントだな~。
 鮎川さんの未読本はまだまだ手元にあるので、また時間を空けてから読みます。

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