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【読了011・013】ルース・レンデル『殺意を呼ぶ館(上・下)』

 森の中にたたずむトバイアス家代々の屋敷シュローヴ館――イヴとライザの母娘は館の管理をしながら、ライザが十六歳のときまで世間と隔絶された環境でひっそりと生きてきた。だが警察官がやってきた夜、イヴは娘に館を出てロンドンに行くよう命じた。ライザはイヴの指示には従わず、ひそかに愛し合っていた庭師のショーンのトレイラーハウスに身を寄せる。彼の驚きをよそに、ライザは母が殺人を犯したこと、しかもこれが初めてではないことを打ち明け、驚くべき物語をシェヘラザードのように語って聞かせるのだった……。

扶桑社

※ややネタバレを含む感想です




 ルース・レンデルは『ロウフィールド館の殺人』を読んだ瞬間「私この人一生好き!!」ってなった作家です。久々に読んだレンデル、やっぱり面白かった。イヴの迫力はさすがというしかない。

 イヴとライザ、男の差が命運を分けたなあ……。ライザにとって、彼と出会えたことがどれだけ人生の財産であり幸運だったか。かたやイヴの男運の悪さよ。
 何でも出来る、ものすごく頭のいい人だったのに、不運な出来事をきっかけに蜘蛛みたいに巣でジッとしてるようになってしまって、そこから何もかもダメになっちゃったんだなあ……。外に出て色んな人と知り合っていれば、どんな風にも美しく彼女を咲かせてあげられる人と巡り会えてたろうに。
 私は大学を出て以来ほぼずーーっと家の中で仕事をしてて、友人もどんどんなくしていって、とうとう母親以外の誰とも接することなく過ごすようになってしまったので、「自分だけの世界に引きこもる」ことがどれだけダメなことか実感としてよく判ります。

 幼い頃からすり込まれてきた館の絶対的な存在とか、母親と先代との関係とか。本当に「富裕層のクズ男」に翻弄されるだけの人生で、彼女の神経がどんどんどんどん狭く細く尖っていく様子に息苦しくなる。
 他者への敵意や嫌悪、自分の力を過信せざるを得なかった状況、自分で自分をどんどん追い詰めていく感じがいかにも「レンデル節」という感じ。レンデルはいつも「正気と狂気のギリギリの境界線上に立ってる人」をものすごく上手く描写するけど、イヴもやっぱり「境界線上の人」だったな……

 ライザはイヴに手を繋がれて、ずっと一緒に境界線上に立っていたけど、最後の最後で反対側に跳びましたね。あっちとこっち、イヴとライザ、完全に世界が分かれた。最後の清々しさには胸が熱くなるくらい。でもああいう終わり方、もしかしたらレンデルには珍しい?
「2つの人生を読み切った」という満足感がすごかったです。無粋と分かってはいつつ、ライザのその後の話が読みたい。

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