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優しい帰路

旅の帰路、山間を走る電車の車窓から、黄昏を追う。
夕日が沈むと、山々は次第に暗くなり、ガラス窓を挟んだ闇の向こうに姿を消していく。
昼間は圧倒的だった自然の大きさが、徐々に遠のいていく。
木々の輪郭や山々の境界が曖昧になり、一緒くたになって、代わりに民家の光がぽうと灯りはじめる。
人間の生活が、遠慮がちに、光を灯して浮き出してくる。
時折、カーテンを開け放したままの民家や、高架沿いの小さな企業ビルがあったりして、その中にいる人の営みやしごとが見えることがあり、何だかじんわりとあたたかい。
都心に戻るにつれて、勇壮な自然と寒々しい暗闇は小さくなり、人の暮らしが戻ってくる。
ちっぽけな人間たちが、こまごまと大事に守っている日常のあたたかみの中を、電車は律儀に私を運んでいく。

見知らぬ土地へ行き、新しいものに触れ、普段は享受できない自然の豊かさを身に余るほど味わったあとでは、日常もまた、優しく美しく映えるものだ。
旅することは、帰ること。
薄れていく旅の余韻をかみしめながら、心の中で「おかえり」と自分に囁くとき、私はとても幸福なのだと思う。

最後まで読んでくださってありがとうございます。 わずかでも、誰かの心の底に届くものが書けたらいいなあと願いつつ、プロを目指して日々精進中の作家の卵です。 もしも価値のある読み物だと感じたら、大変励みになりますので、ご支援の程よろしくお願い致します。