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詩集『その10』

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記事一覧

『1%』

『1%』

はじめてスマホをもった日から、
いのちが、すこし足りないような気がしている。
だれにも渡せないものをもっていたいと思うのは、
わたしが、まだまだ人だからですか?
穏やかな顔をして、永遠のフリをして、
少しずつ削れていくわたし、
愛も夢も、いのちをたくさん使う、
だから、ちゃんと選ぶんだよ。

充電って、1%から結構粘るよね、
あれ、わたしのためじゃないといいな。
自分のために生きないのなら、
やめ

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『漣の詩』

『漣の詩』

きみが生きているせいで泣いている人もいて、そうやって命はつよくなる、防波堤で死んでいく波たち。なんとか朝を迎えられた体が微かに震え、一秒一秒、時間をかけてきみになっていくその様を私は、見たことがないから不気味におもいます。生きることは、まあまあ気持ち悪い。ひとりとして同じ人はいないのに、どうして同じ気持ちだといえるの。きみの知らないところで生きている命を、知らないことすら知らないようなその瞳を、ど

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『ランプシェード』

『ランプシェード』

どうしても欲しくって
ここまできた
なのに どうしてかな
違うことをかんがえてる

雨がふりそうだから
傘をもってきた
なのに どうしてかな
忘れてくればよかったな

明かりをつけて
それを隠すみたいな毎日だよ

体をめぐる血は温かいね
平気 大丈夫
君よどうか
なにも知らないでいて

難しいことは楽しいね
平気 大丈夫
朝よどうか
わたしを知らないでいて

『炎』

『炎』

燃やせればなんだってよかった。

人は思ったより光と熱に支配されていて、それに気づけないまま、赤く燃える夕日をきれいだとおもって眺めている。瞳に映り込んだ赤色を、その揺らめく炎を、わたしは、おそろしいとおもって眺めている。孤独に殺された人たちが今日も、爆発寸前の"それ"を胸の奥、一点にたずさえて歩いている。平和が、分厚い板のようにのしかかっていく。かくしていく。つぶしていく。今に火が上がるよ。目を

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『生きてます』

『生きてます』

かなしみはさびしさの同系色。

浮きあがる風船のひとつひとつが、目の前で割れて、弾けていった、弾かれないままのギターは音の出ないギターと同じで、生きているだけでは何か足りないような気がして、本当はそんな事もないのに、花も猫もみんな生きるくらいしかしてないのに、僕らだけだよ、うつくしいね、輝き続けなきゃいけない系生命。それなりにすごいことをしているから、それなりに誇っていいんだよ、言葉じゃいつまでも

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『水曜日の詩』

『水曜日の詩』

みんなを泥人形だと思わないと生きていけない日があること。

人の多い場所がきらいだ。自分まで人のような気がしてくる、誰かが死んだニュースがきらいだ。自分が生きているような気がしてくる、怪我をしたら当たり前に赤い血が出てくるとか、本当は全然わからなくて、わからないことを時々思い出すために、言葉があるのかもしれないな。宇宙は広いです、人はいつか死にます、世界に構っていられない日の空が一番、なんだか世界

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『生きかけ』

『生きかけ』

この世界を生きた覚えなんてまだ一度も無くて、ただ霞のように浮かんでいる、小石のように転がっている、そのよるべなき冷たさを、情けないほどの静寂を、あなたは、あなただけはそれでも、命と呼んでくれるからわたし、この体を引きずったまま、どこへだって行けた。

本当は何者だってよかった、人じゃ無くたって構わなかった、ただ、その仮面が歪むほど笑ってくれるなら、この体が壊れるほど抱きしめてくれるなら、その為なら

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『声』

『声』

道端の蝶々は
秋の光を散らかし
私の瞳は
まるで幼い星のよう

忘れ物をしたことも
忘れたふりして
かたちのむこうで
いつの日か

待っていたよと
声がして
探していたよと
声をかける

また
会いましょうか
きっと
会いましょう

『十月の詩』

『十月の詩』

いきるためにやっていることを美しいだとか、本当は言っちゃいけないのかもしれなくて。精一杯やってダメだったことを覚えているとか、本当はおかしなことなのかもしれなくて。明日に明日がくることとか、本当は間違ってるのかもしれなくて。あなたとわたしが違うこととか、お腹が空いて物を食べるとか、本当が本当なのかわからない時ほど、本当に本当なのかもしれなくて。

『除湿』

涙の代わりみたいに
息を吐く

積み重ねてきた何かが
少しずつ体から出ていくような
夜がくる
言葉で飽和しきった空気
26℃のかなしい部屋
逃げ場はない

息をしていたかった
せめて
もう少し軽々と

虫のように
小石のように
ただここに在るだけのわたしを
抱きしめて
月日が死んでいく

泣けたなら
少しは自分を愛する暇も
あっただろうか

輝いていたものは
みんな
あの夏に溶けてしまって

『鏡の詩』

『鏡の詩』

残さずに見ていて
割れたままで光るそれに
映り込む私が
向こう側で微かに動いてる

私じゃない
誰かの心のなかでも
私は動いている
それを私は見ていた? 

ごめんね私
あなたを見ていても
あなたはそこに半分だけ
残りは笑えるほど私

残さず
拾い集めていて
砂のような言葉たち
煌めいて揺れる波打際

そっと影を重ねた
ふたり

『フィルムの詩』

『フィルムの詩』

悩んでるのはきみだけじゃないといわれて、その瞬間わたしの、最後の足場が崩れていった、わたしがわたしであるために必要なものはそんなに多くなくて、簡単に消えてしまえるねって、そう叫んでもぜんぶ、夏の空気に溶けてしまった、鳥が呼んでる、幸せを呼ぶことになってる鳥が、誰も知らない名前を呼ぶ、たくさんの愛が欲しいから、細切れになった愛が空を飛ぶね。きみは信じていられる?いつまでも信じていられる?羽ばたきの隙

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『Tシャツの詩』

『Tシャツの詩』

夏の雲をどかして、君はアイスを溶かして、形のない風たちが息をしている。生まれた染み、アスファルトの黒、波を、波の音を聴いたことのある人たちはみんな、聴こえない周波数があって、ちょうどその隙間を縫うようにして誰かが、声を上げていた。つけたシワを伸ばすように、日は照らす、言葉が散る、君の探していたものはどこにも無くて、それでも君は、この夏を少し、好きになろうとしていたね。渡さないよ。探さない。ぐちゃぐ

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『虹の亡霊』

『虹の亡霊』

ほんとうの意味で、きみと、同じ気持ちにはなれないということ、ただそこにだけ、優しさは宿っている。それは根を下ろし、葉を広げ、無関係なあなたを繋いでいく、ただ光の方へ、光の方へと伸びたその先で、出会ったもの、すれ違ったもの、わたしは何を見つけたのかな、何を見つけていくのかな、他人なんて大嫌いだと、そう言えない程度の愛に揉まれて。あなたの言葉が私を傷つけるとき、そこに、本当はあなたすらいなかったと、風

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