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【物語詩】おじいさんの居ない部屋

 おじいさんに会っていないのに
 おじいさんを知ることはできない
 おじいさんと会話したことがないのに
 おじいさんの口癖はわからない
 おじいさんと暮らしたことがないのに
 おじいさんの生き方を決めつけられない

 おじいさんが居ないのに なぜか
 おじいさんの居ないおじいさんの部屋で

 おじいさんのテレビが唸っていた
 おじいさんの茶碗が鳴っていた
 おじいさんの台所の蛇口が泣いていた
 おじいさんの不在を嘆いていた

 私以外の人はポルターガイストと断罪して
 怯えながらも 禍々しい札を書き
 ただただ沈黙刑を命令している

 私はただ 冬のままの箪笥を見て
 春が待ち遠しかったであろう窓を見て
 桜の写真を ペタリと貼り付けた

 おじいさんに春風が吹くかわからないし
 これからも私はおじいさんに会わない

 おじいさんの居ない部屋は
 いつか違う人の部屋になるのかもしれない
 けれど いつか その時
 部屋にこびり付いたおじいさんの思いが
 遅れて天国に旅立つことを願って






あとがき

 この詩は追悼詩です。
 実は先日、私の住むマンションで孤独死された方が見つかったのです。お隣さんってわけでもなかったし、廊下ですれ違ったときに挨拶する程度のコミュニケーションしかなかったのですが、やはり悲しい……。

 不愛想ではなかったけれど大人しそうというか、穏やかな雰囲気の方でした。まだ春ではない時期に、そういえば最近、廊下で会わないなぁ……と思っていたので、まさかと驚きました。

 いろいろ考えてしまいます。
 その人は結局、どんな人生だったのだろうとか。

 ただの近所の女である私には、こうして思い耽ることでしか、その人の死を悼むことができない。そんな思いで詩を書きました。今はただ、ご冥福をお祈り申し上げます。


 あ、最後に、とてもふざけた風の注釈を残しておきます。ポルターガイストはフィ・ク・ショ・ンです!(※重要)


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