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ツクモリ屋は今日も忙しい(14‐前編)

【side:室井むろいくろ

「さてと。そろそろ来る頃か」
 時計を確認して俺は呟く。時刻はもうすぐ朝の10時。搬入業者が、このツクモリ屋を訪れる予定だ。

 夜間、やけにジメジメと鬱陶しい雨が降っていたが、現在は幸いなことにカラッと晴れている。客足も落ち着いているし、よほど急な展開がなければ問題なく納品手続きは終えられるはずだ。

 菜恵さんは用事でいないしな。
 張り切っていくぞ!


(14)「リベンチャーズ襲来」ナノ! -前編-


「失礼しまーすっ! お世話になってます」
 考えている間に、裏口の方から声が掛かった。地域密着型の、顔なじみの業者の声だ。ちょうど客は店内にいないし、挨拶くらいはできるだろう。「お疲れ様です! いつもの場所でお願いします!」

「了解ですっ!」
 業者の兄さんは、半年前から来るようになったアルバイターだ。元気とやる気が並々と感じられて大変よろしい。

「あ、今は俺1人しかいないんだ。接客中で、すぐに返事できなかったら申し訳ない」
 搬入のとき、菜恵さんもいることが多い。いつもと状況が違うことは知らせるべきだと思って告げた。

 青年は少し不安そうにする。
「そうなんですか? 実は、搬入件数が多い日で」

 ひょいっと、裏口の隙間から新たな顔が現われる。
「大丈夫! ぼかぁ手伝うから!」
 振り返った青年は、安心したように頷いた。
「あ、それなら大丈夫か!」

 はい、ちょっと待った。

「に、西松にしまつっ? なんでいるんだ?!」
 さも当然そうに、西松はなぜか兄さんとハイタッチをしながら入ってくる。突然のこと過ぎて俺は驚くこともできずに、ただ問い掛けていた。

「パイセン! 来ちゃいました☆」
「いや、だからなんで来たんだよ!」
「パイセンに~会いたくて~震える~♪」
 うわ。背筋が凍るメロディーを奏で始めた……!

「ていうか、実はさっきの好青年。この前手伝ったときに連絡先をトレードして、既に遊んだ仲でして~」
「既に遊んだ仲!?」
 思わず裏口を見遣るが、業者の青年はいない。

「散歩してて信号待ちしていたら、クラクションで呼ばれちゃって。ついでについて来たのです!」
「それ、俺に会いたかったって言わないだろ」
 めちゃくちゃ成り行きじゃねーか!

《クロー!》《かもーんっ》《出デヨッ!》
 モガミさんの騒ぐ声で、俺は我に返る。きっと客が来たのだろう。早く戻らなければいけない。

「……西松。この前、搬入の流れは把握したのか?」
「イエース! メイビー!」
 メイビーたぶん言うな。

「なら、ひとまず任せる。不明なことがあれば確認に来てくれないか?」
「イエッサー!」
 遊園地のアトラクションの誘導係のように、大げさな素振りで西松はかしこまった。……まぁ、やるときはやる、はず。

 多少の不安を胸に残したまま、俺は店内に戻った。


   ***


【side:西松】

 パイセン、今日もシビアだなー。
 搬入作業くらい、お安い御用。ぼかぁ、前の仕事でも関わっていたからノウハウはばっちりですぜ☆

 ……あの頃は搬入物が桁違いに多くて、怒鳴られて詰られてばっかりだったけれど。ここでは楽勝の境地さ。バイバイ、あのときの搬入物よ!

「西松君、これが領収書ね!」
「おっけー! サイン、これでいいかな?」
「いいともー!」

 仲良し業者君とやり取りを終え、別れる時が来る。
 さらば! 友よ!!
「またカラオケしていいかなー?」
「いいともー!」
 良い友だー!!


 搬入を終わらせたので、店内の様子をそっと垣間見る。静かな空間。そこにヌッとパイセンの切れ目が飛び込んできて、ぼかぁ思わず尻もちをつく。

「ほぇい……っ」
「え、プロテインが欲しいのか? やんねーぞ?」
 びっくりして口がワンダホーな言葉を創作しただけなのに、パイセンは律儀に解釈してくれる。プロテインは、筋肉ムチムチになるやつっすよね? くれないって、持っているってこと?

 ひゃっはー。パイセン、まじ尊敬!

「かしこまり! あの、そちらは」
「こっちは大丈夫だ」
 パイセンの言う通り、店内はもぬけの殻。どうやら店のピンチは乗り抜けたようだ。

「オッケーです。じゃ、ぼかぁこれで……」
「ちょい待ち」
 十分楽しめたし、あまり入り浸るのも悪い。お暇しようとしたら、パイセンに首根っこを掴まれた。
「どうせなら、もう少し手伝ってくれ」

「えっ?」
「この前、検品も習ってたんだよな? 時間が掛かってもいいから、できるところまで、やってくれないか?」

 パイセンの言葉が身に染みるのには、たぶんそれなりの時間が掛かった。
「……西松?」
 訝し気にされ、ぼかぁ、ひゅっと息を吸った。

「いいともー! パイセンのためなら!」
「お前はタモリか……? ま、いいや。よろしく」
 パイセンは去って行った。「いいとも」に対する、最も的確なツッコミを置き去りにして。

 ──そういうところ! パイセン!!
 そういう拾ってくれるのが、いいの!!

「……よーし」
 ここは、脱ぎますか。……一肌を!!


 搬入物で溢れているルームで、ぼかぁ両拳を腰に添えて気合を込める。
「さぁて、往くまでさ!」
 段ボール箱の封を開け、ぼかぁ覗き込む。そこに入っていたのは、大量のハンガーだ。よくクリーニング屋で貰いそうなやつ。

「ふむふむ」
 並べられるだけ、テーブルに並べてみた。

 ……そういえば、今日はまだ、見てない。モガミさんの姿が足りないことに気づく。ぼかぁ臨戦態勢ではなかった。

 さっき不自然にパイセンが店内を気にしていたのは、モガミさんの声が聞こえたのか? さすがパイセン!

 前回に訪れた際には気づかなかったけれど、バックフィード側は、モガミさんモードになり辛いのかもしれない。なぜ? うずうずする。好奇心の蓋が空きそうになるが、今は仕事が優先さ!

 ちーん(荒木君の真似)。
 あれ違う? みーん、だっけ?

《ばかー!》《アッチ行ケー!》《触ルナ》
「……ん?」

 瞳を開けると、視界は罵詈雑言の可愛くないモガミさんで溢れている。リーゼントっぽい頭の形をしていたり、×マークのマスクをしたモガミさんが、うねうね動いていた。

「……ワンダホー」
 ぼかぁ、とりあえず褒めたよね。

 パイセーン。そっちに行ってイイトモー??



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