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百均の駐車場で、300円のスコーンを。

セリアの駐車場でスコーンを食べた。駐車した場所はその入口から店内がよく見える(一等地にクリスマスとお正月の飾り物が陳列されているのが瞭然である)場所で、つまり店から出てくる人からもこちらがよく見えただろう。
帰ろうか、別所に移動しようか、駐車場内で場所を変えようか、と数秒考えたけれど馬鹿馬鹿しくなって、結局そこでスコーンの袋を破った。

昼間、ある催しに足を運んだ。峠を二つ超えたまちから、ピザやパスタ、パン、衣類、、、いろいろ出店していた。どれもが、このまちではあまり見つからない、わたし好みの雰囲気を纏っていた。
時間がある時にそのまちへ行ってみようと思っていたけれど、峠二つ超えが車生活一年生のわたしにとっては高いハードルとなって、気付けば冬を迎えてしまった。冬は峠道の路面が凍るのが怖いから、高いハードルはもはや棒高跳びのそれくらいまで上昇してしまい、つまり簡単に言うと今シーズンは諦めていた。しかし、寧ろそのまちの方が峠を超えてわが生活圏内にやってきたのだ。浮足立って会場を歩き回った。
時間が経つのは早く、コーヒー屋さんとおしゃべりしているうちに催しは終わろうとしていて、慌てて焼き菓子屋さんへ戻る。目をつけていたマフィンはなくなっていたので(ちょっと前まであったのに。出会ったものは出会ったときに、である)、コーンミールとココナッツのスコーンを購入した。スコーンに限らず他のクッキーやらビスコッティやらも、全部、もう見た目が美味しくて、キュンキュンした。

車に乗って、テイクアウトしたコーヒーとスコーンがあって。本当の本当はその時食べちゃいたかったけど流石に会場の駐車場でいただくとなると、「さあ帰るぞ」と出てくる出店者の人々と目があったりすることを想像して気が引けたので、ぐっと我慢。
で、別日でも良い野暮用オブ野暮用のために百均へ移動した。

休みモードだからだろうか。
5分で終わる用だったが、2階建ての店舗をぐるりと回った。偶然見つけた”美術館シリーズ”には心踊り入念なチェック(ゴッホにルノワール、モネ等有名どころの絵画をつかったメモや封筒等があった)をした。でも結局「こういうところで100円だしって言って買うからお金なくなるのよね。そんで結局使わないのよね」と、元々の買い物だけを済ませた。
百均みたいな場所をダラダラ徘徊してしまう習性はなんなんだろうか。久しぶりに行った百均はまだ許されるのだが、コンビニでさえこの習性は発揮される。なんなんだろうか。
お会計、110円。滞在時間、約30分。

車に戻りエンジンをかけると表示された17時十分前は、中途半端に感じられた。
家の炊飯器は18時半にセットしてあってそれまでに帰ろうと思っていた。でも本当はどこか喫茶かカフェにでも入って、本を読むなりフランス語の勉強をするなりしたい(翌日10時までに済ませねばならない2課が残っていた)。でもでも手元にはテイクアウトした良いコーヒーと、良いスコーンがある。購入直後の「いま食べたい衝動」は収まっていたけど、コーヒーもスコーンもあるのに店に入ってコーヒーとケーキを注文するのも阿呆らしい。
17時を知らせる音楽が、窓の外で鳴り始めた。

ああそうか、わたしは店に入るならケーキなり何なり食べ物を注文したいと思っているのか。お腹が空いているんだな。と、ふと気付く。
じゃあとりあえず一口スコーンをつまんで、この何も決められん頭と心を落ち着かせようということで、冒頭に戻るのであった。

良い食べ物とか飲み物は、本当は車の中で食べるべきではないのだ。
コーヒーなりお紅茶なりを準備して、ランチョンマットやテーブルクロスまでいかなくても、せめてちゃんとお皿に出して、お好みで温めて、じっくり味わうものなのだ。そして「美味しいね」って自然と言葉が出る。
車の中で食べていいのは、コンビニのコーヒーにサンドイッチとかおにぎりとか、まあなんか、そういうもんなのであって(ただし長距離移動中、高速を走っている時はのぞく)、良いものを車でいただくと、むしろどこか切なくなってきて、最終的には罪悪感を感じる。いままでのわたしは。

この日の最高気温は前日比マイナス7℃、最低気温はマイナス8℃。寒くなるときも暑くなるときもいつも突然。
エアコンとシートヒーターのおかげで、30分百均で油を売っていた間にすっかり冷えたコーヒーも、香りは立っていないけど、その味の微細さを感じとれるくらい美味しく飲めた。ところで、シートヒーターを考えた人は本当に天才だと思う。背中とお尻に温もりを感じるほうが温風で暖められるよりも何倍もその効果がある。こういうところに日本人っぽさを感じるし、こういうところに日本人っぽさを感じると言っちゃう自分がちょい恥ずかしい。
と、ここまで書いておいてシートヒーターが日本の発明品か確証がないことに気付き調べたら、一番最初はアメリカ車だったみたい。しんどい。
横道に逸れた。

スコーンを袋の中で割る。カパ。割れた瞬間の、手から伝ってきた振動情報で期待値が高まる。さらに一口大にして、ひとつ頬張った。嗚呼。
袋を破ったときに「一口で満足できたら、残して置けるように」と慎重に剥がした製品表示のシールをまじまじと見る。もちろん一つも得体のしれないカタカナはなく、むしろ「有機」とか「アルミニウムフリー」とかそんな言葉が並ぶ。そりゃこの味になるわと、またひと欠片頬張って、ほっぺの奥の方が小躍りして、あったかくなった。もうこのまま一個まるまる食べちゃおうと心が決まった。

何口目かで、「おいし。」と、小さくこぼれた。
四ヶ月前のわたしに、大丈夫だと教えてあげたい。いつかの未来のわたしも、これを思い出せばいい。

この度は読んでくださって、ありがとうございます。 わたしの言葉がどこかにいるあなたへと届いていること、嬉しく思います。