181018_チェリーパイ

こんにち、夢さがし道半ば。

「大きくなったら何になりたい?」

 幼稚園や保育園で、少なくとも小学校低学年までには誰しもが投げかけられる質問。
 わたしは自分のはじめての夢は覚えていない、一番遠い記憶は小学生のとき少女漫画家になりたかったということ。

 小学校2、3年生のときに何人かで行った友達の家。その家の彼女はサバサバっとした性格で付き合いやすくて女子の間で人気者だったが、男子とも仲が良かった。
 かと言って男勝りなわけではなく髪は長く、いつもふわっといい香りを漂わせていて、男子の中には友達に向けるそれとは違う視線を彼女に送っている子もいた。わたしも男子とは仲が良い方だったが女子としての魅力はなく、彼らのゲーム師匠という立ち位置だったから彼女が羨ましかった。
 彼女の部屋にあがって、勉強机の横の本棚にずらっと並んだカラフルな分厚い雑誌にすぐ目がいった。月刊少女漫画誌だった。わたしと少女漫画の出会いである。恋バナをするみんなをよそに、帰る時間までほぼずっと漫画を読みふけった。

 翌月から、わたしは「ちゃお」を購読し始めた。最初はどこで買ったらいいのかわからず、自宅マンション前の坂を登りきった交差点角にある雑貨店で売ってることを例の彼女に教えてもらった。
 昔からやっている小さな雑貨店で棚に並べられている菓子パンの賞味期限が切れていないか不安になるような店だったから、正直一人では入りたくなかったが少女漫画を購読するためならやむを得なかった。
 何が不服なのかわからないけれどいつも怒ったような顔をしたおばあちゃん店主に代金410円を手渡すときが一番のドキドキであった。
 そんな苦労をして「ちゃお」を手に入れたことをアルバイトから帰宅した母親に伝えたところ、マンション向かいのセブンイレブンで買えると教えられた。なんだか寂しい気持ちになった。

 それから「ちゃお」「なかよし」「りぼん」…各種漫画誌に手を伸ばし(もちろん毎回セブンイレブンで買った)、気がつけば自分もそんな絵を真似して描くようになっていた。周りにも同じような友達が何人かいて絵をみせ合ったら、「上手い」と言われるし自分でもイケてる方だと思ったしで、鼻はするすると伸びた。
 小学校高学年になるとお小遣いの額面がぐっと増えたので(わたしの給料アップ比率もこの時くらいにならないだろうか)、ついに本当に漫画を描くために使われる道具を買った。Gペン、丸ペン、インク、ホワイト、原稿用紙、トーン…。
 最初はインクをどのくらいペン先に付けたらいいのかわからず描くつもりなかった鼻の穴ができる等の苦労もあったけど、徐々に使えるようになっていった。お正月に久しぶりにあった親戚にそれらで描いたイラストをプレゼントしたら「プロみたい」だと言ってもらえて、「でへへ」と気持ち悪い照れ方をしたことは鮮やかに覚えている。
 ただ、せっかく買ったは良いものの「ちゃんとストーリーができた時に使おう!」というルールを作っちゃったものだから、大切にしすぎて出番が少なめだったことは思い返せば反省点である。
 それでも、嬉しく、楽しかった。

 うーん、いつからだ?夢そのものに、その「ちゃんと」を求めるようになっちゃったのは。

 どのタイミングで「夢」は「将来就きたい職業」になって、「将来就きたい職業」は「就職したい企業」になったんだっけ。

 わたしは多分、平均よりも早い気がする。
 中学校に入って環境は一変した。進学校だったこともあり、周りには優秀な人がごろごろ居た。ここで生き残らねば、上位にいなければ、と生徒会活動に勤しんだ。
 それなりに効力のある役職について、同時に付随する仕事も持つことになった。その役職の重みが増し仕事が複雑になるほど、クリアすれば親や先生は誇らしげだったしもちろん通知表の内容も良くなったから、わたしは嬉しかった。
 多分、この時くらいからこういう「嬉しい」を手に入れることに躍起になっちゃって、「楽しい」は拗ねてなかなか顔をださなくなっちゃったんだなあ。

 いま少女漫画家になりたいとは思わないけど、夢を持ちたい、追いたい、叶えたいと思う。
 明日叶えられる夢でも、いつ叶えられるかわからない夢でもいいから、それを思い浮かべるとからだがウズウズっとするようなこと。

 なお、いままでいろんな人の夢をきいて感銘を受けたり等しましたが、一番印象的だったのは、当時小学校で「ムシキング」なるゲームが流行っていた従兄弟が言い放った「オレはカブトムシになる」です。

この度は読んでくださって、ありがとうございます。 わたしの言葉がどこかにいるあなたへと届いていること、嬉しく思います。