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花の声を聞く

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幼なじみを殺された、とある少年のささやかな復讐の話。
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2021年1月の記事一覧

花の声を聞く 【小説・1】

花の声を聞く 【小説・1】

(この作品には、PG-12程度の表現が含まれております)

小学生の頃、通学路に咲いていた花を思い出す。

真っ白なラッパ型の花弁が目線の上方から一斉に垂れ下がるダチュラの花だ。
細長く尖った花弁の先端や、他の草花より際立った筋を持つこの花が秀ひいずは少々苦手だった。
「見て見て秀(ひいず)、この花いい匂いがする」
ある日の帰り道、その花の存在に気付いた少女は民家の前で立ち止まって嬉しそうに花に顔

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花の声を聞く 【小説・2】

花の声を聞く 【小説・2】

(この作品には、PG-12程度の表現が含まれております)

いさらという少女はとにかくやかましい奴だった。

給食のおかずを横取りしたとか、ドッジボールでわざと狙ったとか、子供ならではの些細な理由で取っ組み合いのケンカになり、二人して先生や秀(ひいず)の母に叱られることは日常茶飯事であった。
友達も多く、学校に行くのが大好きで、三十九度の熱があってもふらふらと起き上がりランドセルを背負おうとして母

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花の声を聞く 【小説・3】

花の声を聞く 【小説・3】

(この作品には、PG-12程度の表現が含まれております)

鈴舟母娘は木造アパートの二階に住んでいた。人の気配があったが、呼び鈴を鳴らしても玄関は開かなかった。

秀(ひいず)はドアを叩き、
「いるんだろ?出てこいよ。うちで一緒に飯食おうぜ!」
気配が動き、ドアにもたれるようにしていさらが顔を出した。
「……いい」
「はぁ?」
こんなにやつれていながら意地を張る幼馴染に、秀は無性に腹が立ってしまっ

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花の声を聞く 【小説・4】

花の声を聞く 【小説・4】

(この作品には、PG-12程度の表現が含まれております)

幼なじみの死を秀(ひいず)に告げたのはマサエだった。

智也子はいさらを連れ帰った後、母子心中を図ったのだという。先にいさらを手にかけたものの智也子だけは死に切れず、娘の遺体を前に座り込んでいるところを発見された。第一発見者は、いさらの無断欠席を不審に思い昼休みに訪ねて来た担任教諭だったそうだ。

そういえば午後の授業はずっと自習だった。

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花の声を聞く 【小説・5】

花の声を聞く 【小説・5】

(この作品には、PG-12程度の表現が含まれております)

目的地はもう目の前に会った。

宝照寺。いさらが眠る寺だ。

ブロック塀で囲まれた境内はさして広くもなく、ただ所々で樹木が鬱蒼とその枝を張り巡らしている。

勝手知ったる秀(ひいず)は寺務所で線香を買い、水道の横に置かれた桶に花束と水を入れ、本堂の裏へと回った。薄暗い木々の下に墓石がひしめくように並んでおり、いさらの墓は墓地の入口から三番

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花の声を聞く 【小説・6】

花の声を聞く 【小説・6】

(この作品には、PG-12程度の表現が含まれております)

その翌日から秀(ひいず)の周りで奇妙なことが起こり始めた。

ロッカーに入れておいた縦笛が移動教室から帰って来ると机の上に置いてあったり、最後列の席なのに授業中に背中を小突かれるような感覚があったり。
 

気のせいにしてはおかしなことが多過ぎる。

いさらの仕業なのだろうか。
澪は本当に、いさらを見たのだろうか…

澪に謝ろうと思った。

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花の声を聞く 【小説・終章】

花の声を聞く 【小説・終章】

(この作品には、PG-12程度の表現が含まれております)

いさらだ。

泣き腫らした大きな瞳が秀(ひいず)を睨み付ける。

時と、息と、胸の鼓動が、長い刹那停止した。

「バカ秀!なんで気付かないんだよっ」

いさらは怒鳴ってぶうっと頬を膨らませた。
氷のような緊張感は一瞬にして解凍した。

棒のように立ち尽くし全く動きを見せない秀に、目の前の幽霊は「プッ」と噴き出し、腹を抱えて笑い転げた。

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