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宝塚歌劇団の演出家「小柳奈穂子」先生を語りたい2 ~特徴考察編~

 宝塚歌劇団の推しの演出家「小柳奈穂子」先生を語る2回目の記事は、小柳先生の作品の特徴をもう少し掘り下げて考察していく。今回は4つの切り口で作品の特徴を考察する。


組子を活かす作品作り

 小柳作品の特徴の1つは組子を活かす作品作り。宝塚が他の舞台と大きく違うのは役者の数が圧倒的に多いということだ。70~80人規模の組子にどう見せ場を作り、同時に作品として成立させるか。これが宝塚座付の脚本・演出家の腕の見せ所であり、小柳先生はこれが非常に上手いと感じる。そのときの組の体制に合わせて役を作り出し、例えわずかな出番であっても観ている側に印象を残し、ファンを満足させる。小柳先生はこれができる演出・脚本家だ。オリジナル作品では、あてがきなどによって組子の魅力を軸に作品を作り上げ、原作物の作品ではどうしても少なくなりがちな役を上手くアレンジして増やす。宝塚の演出家みんなに求められることではあるのだけど、意外にできていないことも多く、役が少なくてもっと他の組子にも見せ場を作ってあげれば良いのにと感じることはよくある。小柳作品はどの作品を観ても、一人でも多くのタカラジェンヌに輝いて欲しいという小柳先生の愛を感じる。

ドタバタ劇

 小柳作品の特徴の2つ目はドタバタ劇。小柳先生は、舞台上をタカラジェンヌがところせましと駆け回るドタバタ劇的な演出を良く用いる。この演出法は個人的にメリットとデメリットの両面があると思う。メリットは多くの組子に出番を与えられることで、ドタバタ劇の中でそれぞれが小芝居をすることで、小さいながらも見せ場ができる。これが上手く機能すると何度も観劇する人が違う場所を見て楽しむことにつながるし、よく観劇感想で見るような眼が足りないという印象につながる。ただ、ドタバタ劇的な演出はリスクもある。それは、観ている側がドタバタ劇についていけない場合、一気に白けてしまうというリスクだ。ドタバタ劇的な演出を前に、わちゃわちゃして楽しいと感じるか、勢いだけのくだらない演出と感じるかは本当に紙一重で、小柳ファンの私自身でもついていけないと感じるときもある。

原作もののアレンジ

 小柳作品の特徴の3つ目は原作もののアレンジ。小柳先生は、オリジナル作品も手掛けるが、原作物の作品が多いのが特徴だ。その原作も文学作品(シェイクスピア・チェーホフなど)、漫画・アニメ(はいからさんが通る、天は赤い河のほとり、ルパン三世など)、映画(今夜、ロマンス劇場で、鴛鴦歌合戦など)と多岐にわたっている。原作の媒体が違えば、宝塚での舞台化の難しさが違ってくると思うのだけれど、小柳先生は実に上手くやっていると思う。舞台化するのに尺が足りなければ場面を足し、原作が長ければ舞台脚本にまとめ、役が少なければ役を増やす。原作ものを手掛けるときに、原作をどれだけそのまま忠実に再現し、どれだけ原作を改変するかというのは、演出家・脚本家によってかなり個性が出るところだが、小柳先生は大きく原作をアレンジすることを恐れない人という印象を持っている。原作ファンにとっては、時として大きな改変は許せないと感じるときもあると思うが、原作を削ったり変えたりすることを恐れていては原作を無理して詰め込んだだけの駄作になってしまう。宝塚という舞台に合わせて変更を加えることを恐れないというところは、私が小柳先生を評価している点の1つであり、ファンである大きな理由の1つだ。

マンガ・アニメ的設定・演出

 小柳作品の特徴の4つ目は漫画・アニメ的な設定や選出だ。小柳先生個人のバックボーンについては、ほとんど存じ上げないが、氏のwikipediaには下記のような記述がある。

小学生の頃からインドア派で、童話、文豪もの、SF、少女漫画、ミステリーなど手当たり次第に本を読んでいた[1]。小劇場系の芝居やMGMのミュージカル映画などを好んでいた。

wikipediaの小柳先生ページより引用


 想像するにオタク的気質を多分に持つ文学少女だったのではないだろうか。なぜそのように思うのかというと、私自身が同じようにインドア派で童話、文豪もの、SF、漫画、ミステリーなど手当たり次第に本を読んだり、ゲームをしたりするオタク的な学生時代を過ごしていて、小柳先生の作る作品のマンガ・アニメ的な設定や演出が私の感性にめちゃくちゃ刺さるからだ。

 例えばキャラクターや設定については例を見てみよう。下記の2つのリンクを見てみて欲しい。日本ファルコムの軌跡シリーズとコーエー・テクモのマリーのアトリエ。身分を偽っている王女、大怪盗、踊り子、メカニック少女、etc. etc.。小柳作品のめぐり会いシリーズを見ながらこんな作品が思い浮かんだ。小柳作品からは、他にも90年代あたりのマンガ・アニメ・ゲームのエッセンスを感じることが多い。


 演出面でもマンガ・アニメ的手法が上手く取り入れられている。物語の導入のあとに、キャラクター紹介を兼ねたオープニングが挿入されたり、物語のクライマックスで主題歌、テーマソングが挿入されて一気に物語を盛り上げるような手法だ。キャラクターのカットが挿入されるオープニングはアニメでは定番だが、宝塚と非常に相性がいい。生身の役者がキャラクターとして歌い、踊ることでショー的な演出で魅せることができるし、これから始まる物語への期待を高めることができる。小柳先生はこうしたマンガ・アニメ的な演出を宝塚に持ち込むのが上手いなと感じる。

まとめ

 小柳先生を語る2回目は作品の特徴にフォーカスを当てた。ここで挙げた特徴は色々な小柳作品で見られ、作品に上手く演出がハマっていると思うことが多い。一方で、作品によってはちょっと食い合わせが悪いなと感じることもある。小柳先生を語る3回目では、作品を掘り下げるという形で、魅力を語りたい。


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