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宝塚歌劇団の演出家「小柳奈穂子」先生を語りたい1 ~定量分析編~

宝塚ファン歴も長くなってきた。長く宝塚ファンを続けていると、贔屓なものが増えてくる。贔屓の組、贔屓のスター、そして多くの作品を観劇していると脚本・演出家の贔屓というのもできてくる。私にとっての贔屓の演出家は「小柳奈穂子」先生だ。小柳先生の作品は私の好みに非常にあっていて、組やスターの魅力を引き出してくれると感じている。今回は小柳先生の作品の魅力について語ってみたい。書きたいことがかなりあって長くなりそうなので、3回に分けてまとめていく。1回目は、これまでに制作してきた作品の数や傾向などを分析してみたい。

wikipediaの情報ベースになってしまうが、小柳先生の宝塚歌劇団への入団は1999年、前年より嘱託で演出助手として活動されていた。宝塚歌劇団の演出部への女性の採用としては、上田景子先生、児玉明子先生(現在は退団)に次ぐ3人目。学生時代から演劇の制作に関わって経験があったことと、先人が女性演出家のキャリアの道筋を切り拓いていたことで、小柳先生の宝塚歌劇におけるキャリアは非常にスムーズにスタートできたように見える。宝塚の小劇場バウホールでの演出家デビューが2002年の『SLAPSTICK』と入団から3年後と比較的早いことからも、それが伺える。

公開作品数の分析

ここからは小柳先生制作作品の数や分類による分析をしてみたい。下図は、2001年以降の小柳先生作品の公開数を年ごとに示したものである。ただし、演出助手、新人公演担当として関わったもの、ディナーショー、宝塚の外での仕事は除いている。

小柳先生の各年の公開作品数の推移

ここから、色々な情報を読み取ることができる。まず2002年のバウホール演出デビュー以降、2~3年間作品を制作したあと2010年頃まで作品制作数が少ない年が続いている。この期間も新人公演担当などはコンスタントに行っているが、大劇場デビューへの準備のための雌伏の時だったのかもしれないし、プライベートのご事情などで仕事をセーブされていたのかもしれない。2011年に、『めぐり会いは再び -My only shinin' star-』で大劇場作品デビュー。2011年以降は現在に至るまで平均して年2作品程度の作品制作を続けており、宝塚の作品制作の柱の一人として活躍されていると言えるだろう。比較のために、小柳先生の師匠格と言える小池修一郎先生の2001年以降の公開作品数を同じ基準で集計したものを下図に示す。

小池先生の各年の公開作品数の推移

小池先生は、バウデビューが1986年、大劇場デビューが1989年なので小柳先生からすると20年くらい前から活躍していることになる。それもあり、2000年代半ばくらいから平均年2作くらいのペースで公演を世に出している。ただし、小池先生は宝塚の外でも精力的に活躍していることや、同じ公演の再演が多いことなど、小柳先生と単純比較が難しいことには注意が必要である。ただ少なくとも宝塚における作品制作のペースは、小柳先生と小池先生は2010年代以降はほぼ同程度であり、肩を並べて活躍できる存在になったと言っていいのではないだろうか。

作品提供先の組の分析

次は、作品を提供した組を分析してみよう。下図は先ほどと同様に各年の作品の公開数を示したものだが、上演された組を宝塚の組カラーで色分けして示している。

小柳先生担当の公開作品数の推移

やや見づらいグラフで申し訳ないが、色の分布を眺めるとある程度偏りがあることがわかる。明確な傾向としては2011年以降星組への作品提供が多かったことが挙げられる。またもう少し薄めではあるが2010年代半ばの雪組、2010年代後半の宙組、2020年以降の花組の作品提供が多い傾向がある。
一定の期間に特定の組への作品提供が続くのは、1つには一緒に作品作りをすることで、組の体制、スターのカラーなどへの理解が深まり、よりその魅力を引き出すことがしやすくなることがあるのだと思う。詳しいことは、2回目・3回目の記事で語るつもりだが、小柳先生の長所の1つはこの組・スターに合わせた作品提供だと感じている。
星組への作品提供が2010年代に突出して多かったのは、これに加えて2つの理由がある。1つ目は、大劇場デビュー作の『めぐり会いは再び~』がシリーズ展開したことや、海外公演の2つの中国ものなど、継続して作品提供を行う必然性があったこと。もう1つは、こちらの方が小柳作品の魅力を掘り下げる上で重要と考えていることだが、小柳作品の特徴であるドタバタ劇、コメディ要素が多い、漫画・アニメ的な見せ方が得意というところが星組の組カラーに合っていたためと考えている。『パッション!星組!』の掛け声に象徴されるように、体育会系の熱い組カラーを持つ星組は、ドタバタ劇を魅力的にするのにピッタリであるし、宝塚の中で屈指のコメディエンヌであった紅ゆずるが二番手、トップ時代にコメディ色の強い作品を多く上演しているのも偶然ではないだろう。また、『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』などのようにビジュアル面で漫画・アニメ的な見せ方をするには、綺咲愛里や七海ひろきのような絵的に映えるスターが多かった当時の星組はうってつけであった。

小柳作品の分類分析

一回目記事の最後に、小柳先生がこれまで制作した作品の分類を試みたい。分類の分け方はかなり悩んだが、オリジナル作品、原作もの作品、宝塚で過去に上演した作品の再演作品、海外ミュージカル作品の4つのカテゴリに分類した。さきほどと同様に演出助手、新人公演担当として関わったもの、ディナーショー、宝塚の外での仕事は除いている。分類に迷った作品について補足しておくと『アリスの恋人 -Alice in Underground Wonderland-』は、設定やキャラクターで不思議の国のアリスをモチーフにしているが、オリジナル作品、『めぐり会いは再び~』シリーズは一作目のみ原作ものと分類した。また『オーム・シャンティ・オーム -恋する輪廻-』など続けて上演されたものは1作品としてカウントした。下図が分類結果である

小柳作品の分類

一目見てわかるように原作付き作品が圧倒的に多い。これは小柳先生の特徴の一つだ。様々なジャンルから宝塚歌劇にマッチしそうな題材を探してきて、上手く宝塚ナイズする。小柳先生はこれを得意としている。では、どのようなジャンルを原作に作品を作っているかを次に見てみよう。下図は小柳先生の原作付き16作品を、原作がどんなジャンルであるかでさらに分類したものである。

小柳作品の原作ジャンル

さきほどのグラフとは異なり原作ジャンルはかなり多様であることがわかる。漫画・アニメのようなライトなものから、チェーホフやシェイクスピアのような硬派な戯曲まで、硬軟様々な作品を宝塚で舞台化し届けてくれている。漫画やアニメのような題材を舞台化するのと、映像作品を舞台化するのではまた違った難しさがあるだろう。また戯曲のような舞台で演じることを想定した原作であっても、宝塚で演じる場合には出演者が一般的な舞台より多いため、上手くアレンジすることが求められる。原作もの作品を宝塚仕様に上手くアレンジするノウハウについては、小柳先生は宝塚でトップクラスの演出家と言っても過言ではないだろう。

まとめ

小柳先生について語る1回目として、これまで制作してきた作品の数やジャンルなどについて分析をした。分析の中で、小柳先生は原作付き作品を得意としていることや、提供先の組カラーに合わせた作品作りが得意であることが見えてきた。次回記事では、小柳作品の特徴をもう少し掘り下げてみたい。

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