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宝塚歌劇団の演出家「小柳奈穂子」先生を語りたい3 ~小劇場作品感想編~

宝塚歌劇団の推しの演出家「小柳奈穂子」先生を語る3回目の記事は、小柳先生の代表的な作品や私の好きな作品、逆に個人的には組やスター、作品と小柳演出が上手くかみ合っていないと感じた作品も含めて、作品をピックアップして分析や感想を綴っていきたい。本当は3回で終わる予定だったのだけど、長くなってしまったので、まずは小劇場作品からやってみたい。作品のネタバレも含んでしまうのでそこは注意でお願いします。
何か指標があった方がいいと思ったので、以下のように前回分析した小柳作品の特徴と個人的オススメ度を作品ごとに示した。

オススメ度:私の個人的な好みの度合い
キャスティング:役が上演される組やスターの特性にどの程度マッチしているか
原作活用:原作が宝塚における舞台化に上手くマッチしているか(原作付きのみ)
ドタバタ:ドタバタ劇的な要素がどのくらいあるか
漫画・アニメ演出:オープニングやクライマックス演出、キャラ設定などに漫画・アニメ的な要素がどのくらいあるか
5つの要素を★の数で評価した。どの項目もあくまで主観評価。

シャングリラ -水之城-

オススメ度:★★★★☆
キャスティング:★★★★★
ドタバタ:★☆☆☆☆
漫画・アニメ演出:★★★☆☆

 いわゆるポストアポカリプスもの。設定的には、オタクが親しんできた作品のあるある要素てんこ盛り。崩壊後の世界で希少となった水資源を独占しようとする体制とレジスタンス活動という枠組みの中で、記憶を失った主人公ソラと行方不明となったランを探す旅芸人一座の旅を描く。少年漫画的には「北斗の拳」なんだけど、少女漫画でもこういうのは何かありそう(BASARAとか?)。

 あるある展開の連続でつまらないかというと全然そんなことはなく、むしろどのあるある展開に進むか予想しながら観るのが面白く、最後まで飽きることなく楽しめた。師弟対決→「強くなったな・・」と、兄貴分のランの自己犠牲(北斗のトキみたいな)の2つを予想して観てたけど、両方外れだった。

 出番の少ないキャラクターも含めて役がついていて、個性付けによって存在感が出ているのは小柳先生らしい。大空祐飛がソラ、蘭寿とむがランなど名前も含めたあてがきで個性付けされている。出演者に後に色々な組で活躍するスターが揃っていて、その活躍を観たあとで本作を映像で観たのでとても楽しめた。冒頭のキャラクター紹介を兼ねたダンスシーン、クライマックスに向けて盛り上げるタイミングでテーマ曲を流しながら主要キャラクターが順に登場するシーンは氏の最近の作品にも通じる見せ方だ。

アリスの恋人 -Alice in Underground Wonderland-

https://archive.kageki.hankyu.co.jp/revue/backnumber/11/moon_bow_alice/index.html

オススメ度:★★★★★
キャスティング:★★★★★
原作活用:★★★★☆(キャラ設定)
ドタバタ:★★★☆☆
漫画・アニメ演出:★★★☆☆

不思議の国のアリスを下敷きにしつつも、魅力的なオリジナルストーリーに仕上がっている。この作品、個人的にかなり好きな作品。何点か好きなポイントがあるのだけど、1つ目は作品にメッセージ性がしっかりあること。夢と現実の2つの世界が登場し、現実にきちんと向き合うことの重要性が作品を通じて伝えられるものになっている。一方で、主人公がストーリーテラー、ヒロインが作品を世に届ける編集者で、夢の世界や物語を紡ぎ生み出すことの重要さ・素晴らしさも同時に作品を通じて伝わってくる。このあたりは、自身もストーリーテラーである小柳先生の想いも重なっているように感じた。

 好きなポイントの2つ目はキャラクター。小柳先生はアイコニックなキャラクターを魅力的に仕上げるのが本当に上手い。特に脇を固めるキャラクターの魅せ方が上手く、「首を刎ねよ!」が決め台詞の赤の女王。悪役ながら背景がしっかり描かれているので共感できるナイトメア。帽子屋、チェシャ猫、ヤマネ、ドードー、レイブン、白チームの3人、不思議の国のアリスがベースにあるものの、アレンジされたキャラクターが立っていて印象に残る。

 後にトップスターとトップ娘役となる主演・ヒロインの2人は、技量という意味ではまだまだ未熟ながら、この時期の未熟さを抱えながらも作品を形にしようと懸命に頑張る姿は胸を打つ。特にヒロインの愛希れいかは、娘役転向後まもなくという状況で、苦手だった歌で明日海りおとのデュエットなどもあり本当に大変だっただろう。ただ、愛希れいかが未知の環境に放り込まれて苦しい状況で涙ながらに頑張る姿や、明日海りおがそれをリードする中で自分自身も殻を破って成長する姿は、劇中のアリスとルイス・キャロルに重なる。どのくらい狙っているのかわからないけれど、組の状況や組子に合わせた作品作りをする小柳先生の上手さがここにも出ていると感じた。

怪盗楚留香外伝 -花盗人-

オススメ度:★★★☆☆
キャスティング:★★★★☆
原作活用:★★★☆☆
ドタバタ:★☆☆☆☆
漫画・アニメ演出:★☆☆☆☆

後のThunderbolt Fantasyと同様に台湾公演向けの作品選択となっているが、Thunderbolt Fantasyがかなり壮大なストーリーでちょっとわかりにくさを感じたのに対して、こちらの作品は比較的小規模な事件にフォーカスを当てており、お話がわかりやすく綺麗に終わっているので、見やすく楽しめる作品と感じた。柚月礼音が義侠の美丈夫にピッタリなほか、礼真琴の娘役でのダンスなど見所も多い。

かもめ

https://kageki.hankyu.co.jp/revue/2014/seagull/index.html

オススメ度:★★★★☆
キャスティング:★★★★☆
原作活用:★★★★☆
ドタバタ:☆☆☆☆☆
漫画・アニメ演出:☆☆☆☆☆

 ストレートプレイに近い芝居で勝負する作品。ライトでカジュアルな作品を得意とする小柳先生が、情熱と勢いの星組であえてこの作品をやる挑戦が面白い。礼真琴にとってはバウ初主演作品で、こんな難しい作品をやることになって大変だっただろう。チェーホフの戯曲は上っ面の芝居では何も伝わらず成立しない。星組生がそんな作品と真正面から向き合って演じているのが伝わってくる。

 特に最後の礼真琴と城木美玲の二人芝居は圧巻!個人的に城木美玲というタカラジェンヌの魅力がピンときていなかったのだが、これほど芝居ができるとは。。女優として成功することができず、擦り切れ、疲れ果て、錯乱しながらも前に進もうとしているニーナと、作家として成功しながらも自分の道が見えず、ニーナの生き様に揺さぶられて死を選ぶトレーブレフ。チェーホフのテキストの力と礼真琴と城木美玲の渾身の芝居に圧倒される。かもめの演出や礼真琴の得意な歌とダンスも場面に上手く組み込まれていて、このシーンは感動して何度も観てしまった。

 礼真琴にとっては、もちろん阿弖流為のような作品の方が、個性や強みに合っていて魅力が引き出されるだろう。それでも、彼女がこの作品をやったことは、後の作品における芝居で間違いなく活きていると思う。宝塚はエンタメ色が強いので、ここまで骨太な戯曲が演じられることは本当に少ない。チケットを売るという意味でも厳しいだろう。それでもせめてバウホール公演くらいは、若手の成長の糧として本作のような骨太作品をもっとやってもいいんじゃないかと思う。

オーム・シャンティ・オーム -恋する輪廻-

https://kageki.hankyu.co.jp/revue/2017/omshantiom/index.html

オススメ度:★★★☆☆
キャスティング:★★★★☆
原作活用:★★★★☆
ドタバタ:★★★★☆
漫画・アニメ演出:★☆☆☆☆

 2024年に宝塚110周年に合わせて話題のインド映画RRRを宝塚で舞台化するということで話題になっている。だが、インド映画と宝塚の相性の良さに目を付けていち早く宝塚ナイズしたのは小柳先生だ。
 原作は未見ながらおそらく紅カラーに合わせてかなりコメディ色が強くなっているのだろう、礼真琴と瀬尾ゆりあ出演のバージョンで観たが、瀬尾さんと組長まで巻き込んでかなりコミカルな場面が多い。輪廻転生モノという一風変わった作品で、一幕は特にコメディ色強めだが、二幕途中からの復讐劇はなかなかに盛り上がる。コメディ作品の中で一人シリアスに野望に突き進むダークこっちゃんも◎。

Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀

https://kageki.hankyu.co.jp/revue/2018/taiwan/index.html

オススメ度:★★★★☆
キャスティング:★★★★★
原作活用:★★★★★
ドタバタ:★★★☆☆
漫画・アニメ演出:★★★★★

 これはもう、この原作+星組+小柳先生という時点でもうオタクの大好物という感じ。原作をUNEXTで一部観たが、
原作:虚淵玄
音楽: 澤野弘之
主題歌:T.M.Revolution
声優:90年代以降の有名声優多数
とオールスターで、ここに舞台脚本・演出で小柳先生の名前が並ぶのは小柳ファンとしては胸アツと言わざるを得ない。

 キャラクターも、面倒ごとを引っ掻き回して楽しむ妖艶な主人公、使命を果たすために助けを求める可憐な導師、面倒ごとに巻き込まれるタイプのおじさんで実は強い旅の剣客、強さにあこがれて修行に励むが女の子には弱い熱血な若者、隻眼で弓の名手の師匠。などテンプレながら魅力的なキャラクター多数。ここに当時の星組スターのキャスティングがバチっとはまっている。

 言ってしまえば、宝塚で2.5次元舞台を本気でやりましたという感じなのだが、紅さんもあーちゃんもめちゃくちゃコスプレが似合っている。小柳演出で鉄板のキャラクター紹介を兼ねたオープニング、クライマックスに向けた主題歌での盛り上げ演出も良い。一つだけ難点を挙げると、原作は舞台の時間よりもかなり長いので、細かい設定などの説明がかなり端折られていて、しかもその設定が結構複雑かつ、用語も中国風で馴染みにくい。結果、話の筋はなんとなくわかったけど、細かいところはよくわからんかったなという感想を持った。

まとめ

小柳先生を語る3回目は、小劇場作品の魅力を紹介した。小劇場作品は大劇場作品と比べると、挑戦的な作品が多く、出演者の数が少ないことが多いのでキャスティングも行き届いている印象。最終回の次の4回目は大劇場作品を掘り下げていく。

以下は過去記事リンク


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